前回より、十年以上前からパンデミックの到来を予言していたかのような書、『首都感染』(講談社文庫)の著者・高嶋哲夫氏を紹介しているが、氏の作品の特徴は科学的知見をふんだんに取り込み、未来の大災難(ディザスター)を正確に描写することである。今回は、そんな高嶋氏に新型コロナウィルスの危機に今さらされている日本が今後とるべき道を聞いてみることとしたい。
◆新型コロナの危機に日本が取るべき道は?
「インバウンドで中国人を受け入れられないのは当然ですが、今後中国の工場から部品が届かなくなるとか、日本全体も経済的に大きなダメージを受けることになります。だからこそ、世界全体が全力をあげて封じ込めに協力していくということが大事になるでしょうね」と語る高嶋氏。
実を言うと、「インバウンド」については、筆者が経営する民泊を直撃している。一月末だったか、中国からの問い合わせが入った。
「中国のどちら」と聞くと「北京」というので「ならお待ちしています」と返答した。すると、「実は、1月20日に武漢で乗り換えまして……」と言うのだ。こちとら閑古鳥が鳴いているので受け入れてあげたいのはやまやまだが、ほかのお客さんにうつったら、あるいは自治会長として近所のご老人にうつったらということも考えなければならず、丁重にお断りするしかなかった。筆者自身への打撃も深刻である。
◆日本も、いち早く隔離策を取るべきだった
今回世界各国が武漢へ自国民救出のためにチャーター便を飛ばした。その中でも、オーストラリアは武漢の国民をオーストラリア本土ではなくクリスマス島に送り込んだ。島民と隔離できるのであれば、それが一番よい案なのではないか。
「日本でも、感染症の隔離のことをよく知っている専門家が仕切ってホテル一棟を借り切るとか、そういうことは必要ですよね。亡くなった方もおられますのであまりきついことは言えないのですが、そのあたりの対応は甘かったと思いますね」
チャーター第一便で帰ってきた人のうち二人が勝手に帰宅したという。常識で考えて、リムジンバスなり京急線に乗った時点でアウトである。友人の医師に至ってはこの一件を「バイオテロ」と断じ、「この計画を考えた奴は日本を沈没させたいのか」とまで罵った。
「やはり、封じ込めに対する知識とか危機感が足りなかったと思います。船の話でもそうです。夫婦二人が同じ部屋で寝起きを共にしていたら、絶対相手に感染することはわかりきっているんですよ。一人が感染してもう一人が無事ということはありえない。そうやって船全体にパンデミックが広がるというのは十分にありえる話なので、最初から陸上で隔離することを考えるべきでしたね」
「首都感染」においては、WHOが大きな役割を果たす設定になっているが高嶋氏は、このように持論を述べる。
「今回のWHOの対応は鈍かったと言わざるをえません。エチオピア人のトップがWHOと中国の癒着ともいえる関係のために色々と忖度したとかなんとか言われていますが、そう言われてもおかしくないほど対応が遅く、ウイルスの名前も”COVID-19”ではなく、世界の教訓の意味を込めて、”武漢-19”にすべきでした。偏見や風評被害は、『人の心の弱さと無知』に由来します。教訓として人類の心に刻むことこそ、亡くなった方への追悼になります」(編集部注:編集部の見解とは異なりますが高嶋氏の意見としてそのまま掲載します)
◆ウイルスが収まっても「一件落着」にはならない
話は再び横浜に停留中のクルーズ船に戻る。
「乗船客の方々は七十代以上の方も多く、薬や医療を提供するという意味で横浜に停泊させるのはやむを得なかったと思います。ただ、その後の対応が悪すぎました。なんでも自衛隊に押し付けるのはどうかと思いますが、自衛隊なら細菌戦その他の知識を持つ集団がいますから、そういう見識は最初から大いに活用してほしかったと思います」
インタビューを行ったのは2月13日だが、高嶋氏によるとそれからの二週間が勝負だと言った。
「二月いっぱいで、コロナウィルスの趨勢が決まると思います。収束するのか、さらに広がるのか。時間はありませんから、この二週間かそこらのうちにあらゆる手を尽くし、つぎ込めるものはつぎ込んで徹底的に封じ込めなければなりません。病気は全世界を対象に広まるわけですから、もし一国で封じ込める実力がない国があるとするなら、世界各国が全力で支援しなければなりません」
既に3月だが、収束の気配はない。仮にコロナウィルスを封じ込められていたとしてもそれで一件落着ではない。
「コロナが収まったとしても、その後経済はガタガタになっていますからね。風評被害も広がらないようにしないといけません。収束したら、その次の手当てが必要になります」
◆コロナ・パニックが半年続けば世界恐慌になる?
話は少し飛ぶが、高嶋氏は台風19号の原型ともいえる「東京大洪水」を書き、今後確実におきるであろう南海トラフ・都心直下型地震についても「M8」「首都崩壊」という作品を書いている。
「首都直下型地震や南海トラフ巨大地震が起こると、日本では百兆円、二百兆円、あるいはそれ以上の経済損失が出ます。これは、世界恐慌を引き起こす恐れがあります。ここで話は戻りますがもしコロナ騒動があと半年続いたらこれも世界恐慌の引き金になりかねません」
中国発パンデミックを描く高嶋氏だが、決して「嫌中」でないことは次の言葉からも明らかだ。
「これを機に人類全体がウィルスのことを学ばなければなりませんね。きちんと対処すればそれほど怖いものではありませんが、対処しなければ人類が滅びる恐れがあるほど大変なことになります。だから、日本政府にも可能な限り人的資源もお金もつぎ込んで封じ込めに全力を尽くしてほしい。そして、全世界が一番の被害国である中国を支える姿勢を見せてほしいと思います。収束したら、中国から海外資本がみな引き上げるとか、人の行き来がなくなるというようなことはないようにしてほしいですね」
繰り返すが、筆者もコロナ禍の当事者の一人である。一刻も早い収束を心から願うばかりである。
高嶋哲夫:1949年、岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業。同大学院修士課程修了。日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。81年に帰国後、学習塾経営をしながら小説執筆活動に入る。’94年、『メルトダウン』(講談社文庫)で第1回小説現代推理新人賞、’99年、『イントゥルーダー』(文春文庫)で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞
<取材・文/タカ大丸>
【タカ大丸】
ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。