戦火免れた「伝説のピアノ」復活へ 半世紀ぶりに音色 山口・宇部

大正時代にドイツで製作され、現在は山口県宇部市朝日町の渡辺翁記念会館ロビーに展示されているスタインウェイ社のグランドピアノの復活計画が進んでいる。6日にはウィーン在住の技術者、加藤嘉尚さんによる修復作業を終えたピアノの音出しがあり、関係者が見守る中、約半世紀ぶりに戦前から親しまれた音色が響いた。【反田昌平】
スタインウェイ社製のグランドピアノは1922(大正11)年製。23(大正12)年に宇部興産の創業者、渡辺祐策ら宇部と関わりの深い20人が、文化と教育の発展に役立ててもらおうと新川小学校に寄贈した。太平洋戦争中の45(昭和20)年7月の宇部大空襲の際には校舎に焼夷(しょうい)弾が落ちたが、教員6人が消火して音楽室にあったピアノは戦火を免れたという。
戦後は、渡辺翁記念館で開かれた世界的なピアニスト、レオニード・クロイツァーのリサイタルなどでも弾かれ、宇部の音楽文化の象徴的な存在だった。しかし、老朽化する中で73年ごろから学校に新しいピアノが入ると倉庫に運び込まれて忘れられた。その後、廃棄処分の話が出たが、戦前のピアノの活躍を知っていた市職員らの努力で2007年、渡辺翁記念会館の2階ロビーに設置された。記念品として壊れたまま展示されている状態が現在まで続いていた。
そんなピアノを再び演奏できるようにしようと12年、一般社団法人「SAKI―DORIプロジェクト」(真部尚志代表)が設立された。劣化や損傷など現在の状態を調べ、2月26日には技術者の加藤さんが宇部を訪れ、ピアノをオーバーホール。鍵盤の一部や弦を交換するなどした。
3月6日は、ウィーン在住のピアニスト、碓井俊樹さんと宇部在住の音楽家、田中祐樹さんがアザラシヴィリ作曲の「リリックメロディー」など計4曲を弾いた。ロビーに澄んだ音色が響くと、集まった関係者は静かに聴き入っていた。
今後は、塗装など外観の修復作業を実施する予定で、来年の市制100周年に合わせて、来秋ごろには初披露コンサートを開く予定だ。真部代表は「戦前のピアノはほとんど焼けて残っていません。戦前戦後の宇部の文化を支えてきた市民の宝として新しい100年につないでいきたい」と話している。