◆”国際標準”からかけ離れた安倍政権の新型コロナ対応
後手後手で科学的根拠に欠ける安倍政権の新型コロナウイルス対応が続いている。
「早期発見(検査)・早期治療・早期隔離が大原則」(国民民主党の原口一博国対委員長)なのに、いまだに日本の検査数だけが他国に桁違いに少なく、数字に現れない形で感染が広がってオーバーシュート(爆発的患者急増)に至るリスクは日増しに高まっているのだ。
“国際標準”とは異なる日本特有の対応は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で感染拡大をした時から既に始まっていた。「14日間隔離なしでの下船者帰宅」などについて海外メディアから批判が噴出したのはこのためだが、そんな中で船内の動画を投稿、驚くべき実態を告発したのが、神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授だ(参照:”ダイヤモンド・プリンセス号船内に入った感染症の専門家の告発動画。現地記者からも裏付ける証言が”、”削除後も波紋を呼ぶ「岩田告発」。なんと現役厚生労働副大臣が船内ゾーニングの不備がよくわかる写真を投稿、後削除”|ともにHBOL)。
そして野党国会議員との電話会議(ヒアリング)では、米国疾病対策センター(CDC)のような感染症と対峙する専門機関が日本にはなく、専門家委員会が政権方針の追認組織のようになっていることを問題視、“日本版CDC”の創設を訴えてもいた。
安倍政権の対応のどこが問題で、どう改善していければいいのかをハッキリさせるためには、現場経験豊富で感染症対策の“国際標準”を知り尽くしている専門家の話を聞くのが最も有効に違いない。そこで、岩田氏と野党議員の電話会議内容を3回に分けて紹介していく。
◆場当り的な対策しか打ち出せない安倍政権の“素人対応”
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の動画を投稿した感染症の専門家の岩田健太郎・神戸大学教授と、立憲民主党の枝野幸男代表の見方が一致、後手後手で場当り的な新型肺炎対策しか打ち出せない安倍政権の“素人対応”を浮き彫りにした。米国をはじめ他の国は下船乗員を14日間隔離したのに、日本政府はそのまま帰宅させてしまったのだ。
枝野代表が安倍政権の新型肺炎対応を批判的に語り始めたのは、衆院予算委員会での質問を終えた2月26日15時すぎ。囲み取材で約50分間の質疑応答を振り返った後、岩田氏も海外メディアも問題視した「14日間隔離なしでの下船」について筆者が質問、枝野代表も同じ見方をしていた。
――クルーズ船を降りた方は海外では14日間隔離をしているのに日本ではそのまま帰してしまったことに対して、岩田教授は「おかしい」と言っているのですが、(枝野代表の質問に)加藤(勝信・厚労)大臣は「受入施設がなかった」と答えましたが、これ自体が問題ではないかと。(海外に比べて)感染症対策が遅れているような印象を受けましたが、どう受け止めましたか。
枝野代表:(加藤大臣は)従来から「受入先がない」という話は釈明されていたので、「14日間あったのではないか」と今日私は指摘をしました。もちろん当初から(船から)出た時の隔離は想定していなかったとしても、ある段階からは出た場合に感染拡大をしないような場に留まることを想定して準備をする時間は数日あったのは間違いありません。
そのことを指摘したわけですが、結局、従来の答弁を繰り返すだけで、実際にそういったことを真摯に検討してのかどうか自体、何も言わないということは、そういったことの検討すらせずに、「とにかく(船内から)出すのだ」ということしかなかったのだと言わざるを得ないと思います。
――しかも、その船内が「(感染のリスクのあるレッドゾーンと安全なグリーンゾーンの)区別がなっていなかった」「船全体をレッドゾーンと見なすべきだ」という指摘が感染症のプロから出ているのにも無視して(乗客を自宅に)帰した責任は重いような気がします。
枝野代表:実際に自宅等に帰られた方の中から感染者が出たこと、それから「客室に留まってください」という事実上の隔離、船内隔離をした以降に(船内に)入られた厚生労働者などの皆さんが感染していること、つまり「船内にいれば感染が拡大しない」という前提は崩れていることは明確です。
どなたがどう言ったのか、船内の状況がどうだったのかに関係なく、「『2週間、船室の中におられた方は安全だ』というのは崩れている」のは明確だと思っていますが、そのこと自体を認めていないのでは、対応策を打ちようがありません。
◆感染症対策の専門家としては「言語道断」の対応
「2週間の船内隔離は有効(安全)」という前提が崩れたことすら認めない安倍政権を、岩田氏も「言語道断」「物語」と批判していた。「ダイヤモンド・プリンセスはCOVID-19 製造機。なぜ船に入って1日で追い出されたのか」と題する動画(現在は削除済み)を投稿した翌2月20日、野党国会議員とのテレビ電話会議(共同会派ヒアリング)で次のような質疑応答が交わされていたのだ。最初に“14日間隔離問題”を取り上げたのは、元厚生労働政務官の山井和則衆院議員(立憲民主党会派)。
山井和則衆院議員:(動画を見て)非常にショックを覚えました。中に入られた専門家の先生が「グリーンゾーンとレッドゾーンの区別ができていない」ということをおっしゃいました。そこで今日(2月20日)、先生のご発言を国会で報告をさせていただいたうえで「今日500人、クルーズ船から下船されるのですが、念のため、2週間ぐらいは隔離をするべきではないか」ということを私は加藤(勝信・厚労)大臣に提案させていただきました。すると加藤大臣は「もう自由に行動をしたらいいのだ」という答弁だったのです。先生はいかが思われますか。
岩田氏:結局、一連の昨日から今日の流れで思ったのは「科学的な対策はどうでもいい」という感じを受けます。つまり、「感染症対策は何を持って成功で何を持って失敗か」というのを明確に分ける、「どれが人災で、どれが天災なのか」を区別しにくいところがある。だから、ずるい言い方をすると、なあなあで適当な対策をして患者さんが増えても、「まあ俺たちは頑張ったのだ。結果的に患者さんが出ても仕方がないのではないか」という感じの話にすることはできないことはない。
ところが、ちゃんとした対策を取るべきところで取っていないで感染症患者が増えるということは、少なくとも私、プロにとっては耐えがたいことで、「まったくもって言語道断だ」と思っています。
(ダイヤモンド・プリンセスの)クルーズ船の中で、2月5日以降で、暴露の機会が十分にあると思いましたので、いつ感染が起きたのか分からない。そうすると、「(2月)20日で隔離を終了してもいいのか」「今日終了していいのか」という確証となる根拠が失われているわけですね。
従って、アメリカでもカナダでも香港でも韓国でも自国に連れて帰られた方は、みんな追加の14日の隔離をしています。それは取りも直さず、「日本のクルーズ船内の対策を国際社会は信用していない」ということを意味しています。
それでは「日本で降りている方(日本人)は大丈夫だ」という科学的根拠はどこにもありません。ですので、本来であれば、どういう形かは別にして、船を降りられて2週間追加の健康監視をして、他の人への感染の被害を広げないことがすごく重要だと思います。
私も含めてそうなのですが、船に入られたDMAT(災害派遣医療チーム)の皆様とか厚労省の皆様も非常に非常に危険な状態で艦内に入っています。感染対策の専門家としては、ああいう状態でいろいろなスタッフの方が入られるのは、ものすごく耐え難いぐらい不安になるもので、「どうなってしまうのだろうか」と気の毒に思ってしまいました。
あの方々(厚労官僚ら)にもすでに感染者が出ていますけれども、これからさらに新しい感染者が厚労省の方々などで発生しないことを心から願っていますが、そうならない保証はどこにもない。
◆感染者隔離のやり方は中途半端で、政治的な妥協の産物だった
院内感染で生死をさまよった経験を持つ原口一博国対委員長(国民民主党)も、隔離問題を取り上げた。
原口氏:立憲民主党の逢坂(誠二)さんと国民民主党の泉(健太)さんが厚労省から聞き取りをして、「本当にこれ(14日間の隔離なし)でいいのか」と言いましたが、実際に下船をした方々からも「このまま家に帰っていいのか」「自分は家に帰りません」という声が出ています。そういう状況について、どのように分析されているでしょうか。
岩田氏:アメリカやカナダのように、もう2週間観察(隔離)期間を置くのが妥当だと個人的には思います。それをしないのであれば、むこう2週間で、その人たちの間で感染症の発症が起きるかどうか、何例出たのかが厚労省の取った施策の是非を教えてくれるのではないか。
本来であればきちんと隔離をして14日間監視をして、(乗客の)500人の方にはお気の毒だと思うのですが、こういう時はやはりミッションをしっかり作って、隔離をするのかしないのかを決める必要があるのです。
今回のクルーズ船でも、隔離はしてみたが散歩の時間を作ってみるなど、非常に対応が中途半端でした。政治的な妥協の産物だと思うのですが、我々が感染対策をする時は、全部科学を根拠にしますので、どんな横槍が入っても妥協しない時は妥協しません。
それが、専門家的な態度と官僚的な態度の大きな違いだと思います。科学という観点から言えば、やっぱり健康監視期間をきちんと見て、その間、人との曝露を最小限にするというのが本来の正しいやり方だと思うのです。
◆厚生労働省の対応は、非科学的で専門性を欠く
国民民主党の厚労部門長で医師の岡本充功衆院議員は、検査時期と精度の観点から政権の対応が非医学的であることを指摘した。
岡本氏:今日(2月20日)、予算委員会を聞いていて思ったのですが、加藤大臣が大変気になる答弁をしていて、「今日降りる500人の方々のいわゆる検体の採取はいつしたのか」という問いに「1週間ほど前の人がいる」ということを認めている。「先週の今頃とった検体で陰性だから」「今日の時点で無症状だった」ということをもってして、「下船をし、自宅待機を求めずに市中で活動することを認める」というのは適切とお考えでしょうか。
岩田氏:これは不適切だと思います。理由は二つあります。一つは、以前にやった検査を受けて、その後に感染してしまった場合は、その検査の陰性結果は全部チャラになってしまうというのが一つ。
もう一つは、すでに事例が出ているのですが、検査というのは結構、感染者であっても陰性と出るのです。後で陽性ということがあるのです。厚労省はずっと間違っているのですが、「検査陰性を根拠に隔離を解除する」という決め方がそもそも間違っている。検査陰性で隔離を解除すると、そのことで発症をしたりする人はたくさんいる。
ですので、(クルーズ船の乗客で)そもそも無症状の人に検査をしても陽性でも陰性でも(14日間隔離するという)判断は変わらないので、検査をすべきではないのです。これを実は、厚労省に申し上げたのですが、すごく嫌な顔をしていて、「みんながやれというのでしょうがないじゃないか」みたいなことをおっしゃる。
私は「科学的に物を決めるべき」という立場で、厚労省は「みんなが求めているので」と政治的に判断をするのです。政治的に判断をしていい時はあるのですが、少なくともクライシス(危機)の時は、リスクミティゲーション(リスクの最少化)をしないといけない。
その時は果断が必要で、「みんながほしがっているから」と言って、特に検査が枯渇しそうになっている時に、検査を無駄遣いするのはまったく許されないことなのです。こういったところも厚生労働省の対応は、非科学的で専門性を欠くなと思っているところです。
◆半分以上の感染者は検査で陰性になる
岡本氏:今回のクルーズ船に関しては、先生のおっしゃる通りです。ここで貴重な検査の資源を、いま数万とか十万の検査ができるのであればやればいいですけれども、いま4000弱しかできないというのをここでやるのではなくて、もう皆さん降りてもらって、申し訳ないけれどもリセットして、「もう一度、14日間の完全に隔離された生活をしてもらうことにしてはどうか」と私は思っています。
いずれにしても現時点で下船された500人の方、これから降りて行かれる方の中から、検査陽性になる方が出てくると思っています。そのうえで、先生は今回の検査の精度というのは、どのようにお考えになられていますか。
岩田氏:武漢、上海のデータがありまして、検査の精度はいろいろな考え方をするのですが、ここで言うといちばん大事なのは感度です。患者さん、感染者の中で何%ぐらい陽性になるのかですが、ざっくり言うと30%から50%です。これは症状のあるなしでだいぶ変わると思うのですが、半分以上の感染者は検査で陰性になるのです。
このことはすごく重要なことで、「検査の陰性で病気はありませんよ」というためには、少なくとも感度は90%か95%ないといけないのです。50%とか30%というのは、まったく箸にも棒にもかからない数字です。
これをもとに「感染がありません」「感染があります」というのはまったく非医学的な判断になるわけで「隔離解除の基準に検査陰性を使ってはいけない」というのはそのためです。場合によっては、二回三回と検査をして陽性になるのは、コロナウイルスだけではなくて他の感染症でもよく見られる現象なのです。
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安倍政権は「検査陰性=感染していない」という非医学的な前提(虚偽情報)をもとに、「COVID-19 製造機」と化したダイヤモンド・プリンセスから約500人もの乗客たちを、14日間の隔離もせずに、公共交通機関使用禁止令も出さずに帰宅させた。先進国では考えられない下船対応をした安倍政権に対して、海外メディアが一斉に辛辣な批判をしたのは至極当然のことといえるのだ(第2回に続く)。
<文・写真/横田一>
【横田一】
ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。その他『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数