新型コロナウイルスの感染が拡大する中、転勤族の多い街として知られる福岡市が、引っ越しシーズンに伴う転出入手続きの対応に頭を悩ませている。3月末のピークを過ぎても区役所の窓口には行列が途切れず、感染を心配する市民の声を受けて一部の区役所は新たに待合室を設けるなど、混雑を緩和する取り組みを始めた。
「ウイルスの不安があるのであまり中で待ちたくない」。福岡県久留米市から転入してきた男性会社員(27)は6日朝、手続き待ちで混み合う博多区役所の庁内を避け、外で転入届の順番を待っていた。博多区の人口は約24万人。東区、南区に次いで多く、例年3月末から窓口に転出入者が殺到するが、ピークを過ぎたこの日も朝から多くの人が詰めかけていた。
企業の支店が多い福岡市は転入者が多い街だ。福岡アジア都市研究所が2015年の国勢調査を分析したところ、その5年前の居住地が福岡市外だった市民は14・9%。政令市では15・6%の川崎市などとともに高水準だった。一方、福岡市によると年間に約19万件ある転出入届・転居届のうち約5万件が3~4月に集中する。最大2~3時間かかる窓口での待ち時間の短縮が以前から急務となっていた。
このため、市は今年1月から手続きの一部をオンライン化。名前や新旧住所などをインターネット上で事前に入力すれば、区役所では本人確認と書類へのサインで済み、区役所に出向く日時も予約できるようにした。新型コロナ対策とは関係なく始めた全国でも先進的な取り組みだったが、3月末までの利用は約2300件にとどまる。一方、総務省は3月、感染拡大を防ぐため転入届のルールを緩和し、転入後14日以内の期限を過ぎてもよいなどとする「緊急措置」を全国の自治体に通知していた。
だが、福岡市の区役所で取材すると、転出入者に市や国のこうした取り組みが十分には周知されていないようだ。そこで博多区役所は6日から3階の会議室を新たに待合室として開放。1階ロビー内の混雑を避け、隣の席との間にスペースを空けた待合室で順番を待つ転出入者の姿が見られた。扇風機を回して換気するなどし、今月末まで開く予定だ。
博多区役所の中野智江・市民課長は「オンライン手続きの活用や手続き期限の緩和も呼びかけていきたい」と話す。【飯田憲】