危険ドラッグ密売 サイバー空間に流通ルート 闇サイト、機密通信、仮想通貨… IT駆使で巧妙化

中毒者による車の酩酊事故などが社会問題となった危険ドラッグ。取り締まりの強化で販売店舗が消滅して以降、地下に潜った密売網は機密性の高い通信ツールや仮想通貨などを駆使した巧妙なものに変貌し、乱用者を生む温床となっている。警視庁による危険ドラッグの密売グループ摘発から、サイバー空間に構築された流通ルートの一端が明らかになった。(玉崎栄次)
住宅街に製造拠点
東京都葛飾区の閑静な住宅街。2月25日、警視庁組織犯罪対策5課の捜査員らがその中の一軒家に踏み込んだ。内偵で危険ドラッグの「製造工場」であることが判明。捜査員らは大量の違法薬物のほか、原料となる粉末や植物片、水溶液を発見した。床には精製に使うビーカーやスポイトも乱雑に置かれていた。
組対5課は同時に、それぞれ指示と発送の拠点となった台東区と文京区のマンションも急襲。密売グループは摘発リスク回避のため、製造拠点の危険ドラッグを定期的にスーツケースで発送拠点へ運び込んで保管しており、3カ所から押収された危険ドラッグは末端価格で計1億円近くに上った。組対5課は医薬品医療機器法違反(販売目的貯蔵)容疑で36~45歳の男3人を逮捕した。
「D」で集客
「D」。密売グループはこう呼ばれる闇サイトで顧客を募った。匿名性の高いインターネット空間「ダークウェブ」上にあり、その頭文字を取った通称だ。
販売窓口を兼ねた製造役の男はサイトを見て接触してきた客を、ロシア生まれの無料通信アプリ「テレグラム」へと誘導する。高度な暗号化技術で通信内容が保護され、一定期間が過ぎるとメッセージが消去され復元が困難となるため、証拠を残さずに済む。
さらに慎重を期し、一見客には違法性のない薬物しか送らない。「もっと効果の強い薬物を」と再び要望があり、信用できる客であると確認できて初めて危険ドラッグを売買する。
薬物はレターパックで郵送する。素朴にも見えるが、「通信の秘密があるため、警察が開示を求めるのが難しい」(捜査関係者)方法でもある。顧客は少なくとも全国に500人ほどいたとみられる。代金は追跡が難しい仮想通貨のビットコインで支払わせており、男の1人が開設した口座には、1億4千万円分の入金記録が確認された。
摘発例を「反面教師」に
捜査幹部は「密売の手口は巧妙化している」と実感を語る。警視庁によると、逮捕された3人は、平成30年に摘発された別の密売グループを「反面教師」としたようだ。そのグループは携帯電話で注文を受けており、3人はそれを慎重さを欠いた手口とみて、より警戒を徹底したITツールの駆使による流通ルート構築を思いついたとみられる。
平成26年には東京・池袋で危険ドラッグ乱用者の車が暴走し、7人が死傷した。その事故などをきっかけに取り締まりが強化されたことで、国内に200店以上あった販売店舗は27年ごろに壊滅。これに伴い、昨年の摘発者数は172人と、27年(966人)の5分の1以下にまで減っている。
ただ、乱用はいまだ根強い。今年2月には歌手の槙原敬之被告が「ラッシュ」などの所持容疑で逮捕されるなど、有名人の摘発事例も目立っている。
過去に「合法ドラッグ」「脱法ドラッグ」と呼ばれていた時期がある危険ドラッグは、覚醒剤などに比べ手軽な印象を抱かれがちだ。しかし、化学構造はほとんど同じ。捜査関係者「粗雑に製造されて、より危険なものもある」と警鐘を鳴らす。