幸福の科学学園が2県で休校要請に従わず授業継続中。未成年信者に感染リスク

新型コロナウイルスの感染拡大に関連して、栃木県那須町と滋賀県大津市にある2つの「幸福の科学学園」(中学・高校)が、それぞれの県による休校要請に従わず授業等を続けている。文部科学省のまとめによると、4月22日時点で全国の私立中学の99%、私立高校の98%が休校。栃木・滋賀両県については、幸福の科学学園以外の全ての中学・高校が休校している。

◆県内唯一の休まない学校

那須町の幸福の科学学園(以下、学園)那須校は2010年開校で、大津市の学園関西校は2013年開校。いずれも創設者は幸福の科学の教祖・大川隆法氏。生徒と教職員は全員が幸福の科学の信者と思われる。

2019年4月時点で、那須校に491人、関西校に440人の合計931人の生徒が在籍する(中学・高校合計)。那須校は全寮制で、関西校は多くは寮生活だが通いの生徒も混在する。

学校については安倍晋三首相が2月27日に唐突に全国一律休校を表明し、翌週から実施。3月下旬以降は自治体ごとの判断で学校の再開や休校延長が行われたが、政府は4月7日に7都府県を対象とする緊急事態宣言を発し、16日にその対象を全国へ拡大した。学校の休校も、都道府県知事が学校に対して要請する形で再び全国に広まった。

文科省のまとめによると、全国の休校状況は6日時点で、私立中学26%、私立高校21%。7都府県への緊急事態宣言後の10日時点では80%、74%。全国への緊急事態宣言へと切り替わった後の22日には99%、98%となり、全国のほぼ全ての学校が休校となった。

栃木県によると、学園那須校は「全寮制」であることを理由に要請を拒否。県内で唯一、休校してない状況だが、県としては現時点では再度の要請は行わないとしている。

滋賀県では、学園以外の複数の全寮制の学校が授業を継続したが、県側が再度要請したことで、26日までに学園関西校以外の全ての学校が休校となった。県側は学園にも再度要請はしており、「検討はしてくれていると思う」(県の担当者)という。

両県とも現時点での休校要請の期間は5月6日まで。県立学校についてはすでに5月末までの期間延長が決定しているが、私立学校については4月30日時点では未定。緊急事態宣言の延長等、政府の判断を受けて判断される見通しだ。

◆「第2の新天地イエス教会」になりかねない

幸福の科学は、新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、社会的に問題視される「カルト宗教」の中でも抜きん出て独特な方針を取り続けてきた。〈参考:新型コロナウィルス、日本のカルト団体や偽科学団体、それに類する団体はどう動いているか?」

1月末から「中国発・新型コロナウイルス感染撃退祈願」(奉納目安1万円以上)を開始。日本でも宗教に限らず多くの業種でイベント等の自粛が広がり、行政側からも自粛「要請」が行われるようになる中、幸福の科学は逆に新たなイベント企画を打ち出して全国の教団施設に信者を集め続けた。現在もこれは続いており、SNS上では、教団施設に信者たちが集まっている様子を見た一般の人が不安げに、あるいは批判的に、その様子を投稿している。

2月18日に大川氏は、『中国発・新型コロナウイルス感染霊査』なる霊言を出版した。中国が開発していた生物兵器が「憎しみの波動」によって「悪霊化」した「共産党ウイルス」が新型コロナウイルスであり、神(幸福の科学では大川氏が至高神)への信仰があれば「信仰免疫」が身につくのだとする内容だ。中国で新型コロナウイルスの感染を拡大させた宇宙人の霊を呼び出して喋らせたという設定で、大川氏が語ったものである。

大川氏は2月22日に香川県内で講演。信者たちに向けて、「(マスクは)実際全然要りません。(中略)コロナウイルスを死滅させることも可能です。そういう法力を持っております。だから全然気にしないで、治しに来たと思った方がむしろいいかもしれません」(ザ・リバティWeb「コロナを死滅させることも可能」 大川総裁が香川で講演会「法力を身につけるには」より=記事はすでに内容が改変されている)と語った。

一連の幸福の科学教えや方針を要約すると、おおむね以下のようになる。

・教祖は法力で新型コロナウイルスを死滅させることができる

・すでに感染している人も教祖の講演を聞きにくれば治るのだから、治すために講演会に来たと思えばよい

・だからマスクは必要ない

・信者も幸福の科学の信仰を持っていれば「信仰免疫」「信仰ワクチン」ができるので感染しない(もしくは感染しても大事に至らない)

・そのためにお金を払って幸福の科学の祈願を受けたりイベントに参加したりして信仰を深めましょう

・その信仰を人々に広めましょう

実際、3月上旬に私自身が都内最大の教団施設である東京正心館(港区高輪)前で観察したところ、30~40人の信者が出入りし、マスク着用率は3割ほどだった。都心の電車に乗れば乗客の8~9割がマスクを着けているようになっていた時期である。

中にはマスクを着けて施設を訪れ、入り口でマスクを外してから入館する信者もいた。逆に施設からマスクなし出でてきてからマスクを着けて帰っていく信者もいた。

理屈上、信者がマスクを着けていたら「教祖の教を信じていない」ことになる。マスクが禁止されているわけではなさそうだが、たとえ教団が「強制」していなくても、信者たちがマスク着用に後ろめたさを感じる場になっていることは見てとれる。

信者たちは教団施設内のイベントや祈願で祈りの言葉を唱える。全国にある「正心館」と呼ばれる大型施設などは食堂やカフェテラスなども備えており、イベントの合間には信者同士が互いに向かい合って近距離で会話もする。

悪魔を撃退するために「エル・カンターレファイト!」と叫んでポーズをとる儀式や、病気を治すために「エル・カンターレヒーリング!」と叫んでポーズをとる儀式もある。常に行われるわけではないが、新型コロナウイルスに対抗できる儀式と位置づけられているようだ。4月1日には閑散とするニューヨークのタイムズスクエアで教団職員らが「エル・カンターレヒーリング」と「エル・カンターレファイト」を行った映像をYouTubeで公開。ニューヨーク・タイムズ紙でも取り上げられた。

感染症の専門家でなくても、集団感染のリスクが相当に高い状態にあることは容易にわかるだろう。ここに感染者が混じれば、韓国で大規模集団感染を引き起こした「新天地イエス教会」の二の舞になってもおかしくない。

◆「休校するほうが感染リスクが高い」は本当か

学園関西校はウェブサイト上で、授業継続の理由について、23日付けで声明を発表した。

〈①大半の生徒が寮生であり、校舎も隣接しているので、外部との接触が極めて少ないこと。

②通学していた一部の生徒も、希望に応じて、寮に宿泊しているか、自宅待機しており、現在通学してくる生徒がいないこと。

③毎日の検温で生徒一人一人の健康状態を確認し、衛生管理(うがい、手洗い、アルコール消毒、マスク着用)も徹底しており、全員が良好状態を維持していること。

④外部業者等の出入りは必要最小限に留め、どうしても必要な場合は、検温、手指のアルコール消毒、マスク着用をしていただいていること。〉幸福の科学学園関西中学・高等学校ウェブサイト)

これらを理由として、〈休校して生徒を帰省させる方が感染リスクが高まるため〉授業を継続すると説明している。

しかし本当に、休校する方が感染リスクが高いと言えるのだろうか。

前述の通り学園の生徒も職員も全員が信者と思われる。例外がないと断言はできないが、「ほぼ全員」と捉えて間違いはない。つまり彼らは、幸福の科学の祈願等のイベントに参加する立場にある。

那須校は、教団の那須精舎と呼ばれる大型施設の敷地内にある。徒歩で移動できる距離で、通常であれば学園の生徒や職員は那須精舎での行事に参加する。関西校も、徒歩十数分程度の距離に幸福の科学の支部がある。移動の際はシャトルバスなどを使う必要はあるが約7kmの距離に、大型施設である「幸福の科学琵琶湖正心館」もある。

また現在は不明だが従来は、宗教法人幸福の科学、幸福の科学出版(株式会社)、幸福実現党といった学園以外の教団関連団体の関係者(これも信者)を講師に招いて授業を行うこともある。

「外部との接触が極めて少ない」という学園側の言い分はいちおう事実ではある。あまりに閉鎖的すぎて、関西校の周辺住民からは開校時から現在に至るまで「地域連携を拒んでいる」との批判が聞かれるばかりか、「本当に生徒がいるのか?」と首をかしげる住民もいるほどだ。

しかし学園の実情は、外部からウイルスが入ってくる危険がない閉鎖環境とは違う。「集団感染リスクが高い集団と直結した閉鎖環境」だ。

パチンコ店にしろ飲食店その他の店舗にしろ、あるいは企業のオフィスにしろ、十分な補償がないのに休業するわけにもいかないという経済的な事情がある。しかし学園はこの点でも事情が違う。生徒たちの学費収入だけで成り立っているのではなく、日頃から保護者でも何でもない信者たちに向けて教団が学園運営のための植福(献金)を求めている。「授業を続けるからこそ金が入る。休校したら収入がなくなって潰れる」という構造ではない。

◆「2世信者」たちが犠牲になる

4月28日。ある相談サイトで学園の生徒を名乗って、いまだに休校せず授業や部活も行われているとする相談を投稿したユーザーがいた。別のサイトでも、別の学園生のものらしきアカウントから、現状を不安視する声があがっている。学園生自身も不安を感じているように見える。

もともと学園の生徒たちがインターネットで内部の問題に言及するケースは多くない。長く取材している私自身も、現役の学園生に直接取材させてもらえる機会はほぼない。

学園生も信仰を持っている人が多い。成人の信者ですら、公の場で教団の方針に逆らったり疑問を呈したりすることは難しく、そもそも疑問を感じない人も少なくない。中学・高校生である学園生ならなおさらだ。

学園生の大半は、信者である親をもつ「2世」「3世」の信者たちだ。仮に教団や学園に疑問を感じても、教団内で追求されたり、自分の親の教団内での立場が危うくなりかねなかったり、公にはしにくい様々な事情がある。ましてや教団や信者たちから「悪魔」視されている批判者やジャーナリストに情報提供したとなれば、背教者扱いされかねない。

通常からこうした状況に置かれている学園生がいま、少数とは言えネット上で直接不安を口にしている。休校延長を求めて署名活動などを行なった公立高校の生徒の例などに比べてばささやかに見えるかもしれないが、むしろ学園生にとっては精一杯の行動と見るべきだ。

2世信者が多いということはつまり、実家には幸福の科学の行事に参加している家族がいるケースが多いということ。その場合は実家にも宗教がらみの感染リスクがある。学園に残るも地獄、実家に戻るも地獄、だ。

学園に限らず、幸福の科学そのものが子供たちにとってのリスクなのである。

※ 栃木・滋賀両県への取材は4/30と5/1に行った

<取材・文・写真/藤倉善郎>

【藤倉善郎】

ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)