小池都知事は合格点? 緊急事態の地方リーダーたちの評価は…

最前線でコロナ禍と戦う地方のリーダーたち。前例のない決断を次々と下し、永田町が後を追う。今や国と地方の関係は逆転し、首相候補に吉村(大阪)、小池(東京)の名が挙がる。緊急事態のリーダーたちの評価は?

◆小池・吉村・鈴木は及第点!真に頼れるリーダーは誰だ?

GW真っただ中、政府は「緊急事態宣言」の期限を5月6日から5月末まで延長すると発表した。これを受けて、東京都の小池百合子知事は休業要請に応じた事業者への2回目の協力金支給を決定。大阪府の吉村洋文知事も、国が「出口戦略」を示さないのはおかしいと非難したうえで、独自に制限緩和の基準「大阪モデル」を発表した。

「仕組みを勘違いしており、強い違和感を感じる」

緊急事態宣言下、国に物申す姿勢でらつ腕を振るう地方の若きリーダーの声を耳障りに感じたのか? 西村康稔経済再生担当相がこう吉村知事の発言に噛みつくひと幕もあったが、現在、「人気急上昇中」の若きリーダーは意に介さず……。自らが主張する「出口戦略」については撤回せず「今後は発信を気をつけます」と爽やかな「大人な対応」ツイートで切り返した。

思えば、北海道の鈴木直道知事が頭を下げ、国に先がけて住民に「自粛」を要請して以来、地方のリーダーたちの存在感は一段と増した。「自粛」ばかり要請してカネを出さない政府を尻目に、地方のリーダーたちが知恵をしぼった独自の手法でコロナとの戦いに臨んでいるからだ。そこで、ここまでの彼らの実績を中間評価すべく、3人の有識者にご登場いただいた。まず、政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は、現在のような危機において知事に求められる能力をこう説明する。

「まずは、現場に近い自治体の長ならではの実行力、次に政策を素早く実現させるスピード感、さらに、それらを広くアピールする発信力が不可欠です。総合的に評価できるのは東京都の小池百合子知事、北海道の鈴木直道知事、大阪府の吉村洋文知事でしょう」

◆初動の遅れを挽回?小池知事のスゴイ発信力

とりわけ発信力については、小池知事がダントツだという。

「会見をワイドショーの生放送に合わせてメディアに積極的に出ている。さらに、感染症の専門家(西浦博・北海道大学教授)とともに会見をしたのは彼女が日本で初めてです。専門的なデータも織り交ぜて会見に深みを持たせ、信頼感を増した。それを安倍首相が後からマネするなど、国よりも先がけている印象が強い」(鈴木氏)

五輪延期が決定する前、小池知事は開催都市のリーダーとしてギリギリまで開催にこだわった。これが後に、東京での感染拡大を招いたとの批判に晒されたが、このときの失点はすでに挽回しているようだ……。お笑いジャーナリストのたかまつなな氏が続ける。

「目立ちたがり屋な小池知事のおかげで、東京でうまくいった政策が地方にも広まっている。密閉、密接、密集の『三密』を全国に広めたのは彼女ですし、7月の都知事選では再選も間違いないのではないか」

環境大臣時代にも「クールビズ」というキャッチフレーズを定着させたが、発信力の高さは小池知事ならではといえよう。ただ、コロナ対策と銘打ってはいるものの、都知事選を前に6億円弱の製作費をかけたテレビCMに出演。Webでも人気YouTuber・ヒカキンとコラボするなど、これみよがしに存在感をアピールする“したたかさ”も見え隠れする。

スピード感が光るのは、2月末に全国で初めて独自に「緊急事態宣言」を発表し、外出自粛を呼びかけた北海道の鈴木直道知事だろう。前東京都知事の舛添要一氏は鈴木知事についてこう語る。

「初動は見事。鈴木知事に出遅れた政府が追随する形になりましたからね。初期対応は海外からも称賛されたが、政治は結果責任。北海道は第2波に襲われていますので、まだ判断はできません」

3月の3連休前の時点で、大阪・兵庫間の往来自粛を訴えたり、休業要請に応じないパチンコ店を公表したりと、前述の2知事たちに劣らず話題を振りまくのは、大阪府の吉村洋文知事だ。

「平時は、官僚や公務員は法律の下すべての人へ平等な対応が求められる。だが緊急時にはそれが足かせになることがあります。そんなときリーダーに求められるのは、クビを懸けた政治決断をすること。つまり大胆な政策を実行する『辞める覚悟』があるかどうか。該当するのは吉村知事のみ。『政治家は捨て駒でいいです』という彼の発言からも明らかです」(鈴木氏)

玄人を唸らす成果を上げたリーダーもいる。

「和歌山県の仁坂吉伸知事は2月中旬、県内の病院で院内感染が判明した際、すぐに会見を開きました。感染者の数や年代などを適切に発表し、住民の混乱を防いだ。また、厚労省のガイドラインにとらわれずに、感染の疑いがある全員を対象として600人以上にPCR検査を行い、感染拡大を防ぐことに成功しています」(舛添氏)

ほか、全国初のドライブスルー検査を取り入れた鳥取県の平井伸治知事、全世帯にマスク購入券を配布した福井県の杉本達治知事、感染者ゼロ(5月6日現在)の岩手県の達増拓也知事など、もっと注目されるべき知事は多い。

◆知事に負けず劣らず市長たちも活躍する

このように巧みに陣頭指揮を執る知事がいる一方で、残念な知事もまた存在する。

東京都で外出自粛が求められていた3月末に「無症状の人は(東京から観光で)石川県にお越しいただければ」とまさに不要不急の発言をした石川県の谷本正憲知事の失言は際立つ。5月3日時点で、石川県の人口10万人あたりの感染者数は東京都に次いで全国2位。知事の危機感のなさが県民の命を危険に晒してしまったケースだ。

また、民放の報道番組で「千葉県にはカネがない」と匙を投げた千葉県の森田健作知事も不評だ。

「東京に隣接する都市圏同士で、独自の医療モデルを提唱した神奈川県の黒岩祐治知事と比較してもこれといった対応ができていない。周辺都県の後追いばかりの対応で、もはや半周遅れ。昨年の台風災害の対応に続き、危機管理能力の低さを露呈しています」(鈴木氏)

これと反対に存在感を増しているのが千葉市の熊谷俊人市長だ。

「クラスター化を名乗り出た事業者に100万円を支給するなど、感染拡大を防ぐ独自の対策を行っています」(たかまつ氏)

鈴木氏も市長たちの奮闘をこう評価する。

「休業店舗への補償を全国で初めて行った御殿場市の若林洋平市長の決断は素晴らしい。ほかにいち早く家賃補助を表明した熊本市の大西一史市長。特筆すべき点は性風俗店も補助の対象にしたことです。またゼロ歳~中学3年生の子供1人につき6万円の支給を発表した福井県勝山市の山岸正裕市長も挙げたい。知事より思い切った政策を実行する市長も多く出てきています」

町長も負けてはいない。

10万円の「特別定額給付金」を先月30日から先払いしている北海道東川町の松岡市郎町長を舛添氏は称える。

「地元の金融機関と協力して、一日でも早く必要な方にお金が渡る仕組みをつくったのは見事」

緊急時にこそ、国の舵取りを地方リーダーに任せてみては、どうだろうか。

【鈴木哲夫氏】
テレビ西日本報道部、日本BS放送報道局長などを経て、フリージャーナリストへ。『最後の小沢一郎』(オークラ出版)など著書多数

【たかまつなな氏】
お笑いジャーナリスト、時事YouTuber。「笑える!政治教育ショー」を行う笑下村塾の取締役を務める。著書に『政治の絵本』(弘文堂)

【舛添要一氏】
前東京都知事。’09年の新型インフルエンザ流行時には厚労相としてらつ腕を振るう。現在は執筆活動、コメンテーターなど幅広く活躍中

取材・文/沼澤典史・野中ツトム(清談社) 村田孔明(本誌) 写真/時事通信社