新型コロナウイルスの感染拡大で多くの施設が臨時休業する中、動物園も長い休園期間を過ごしている。入場客がいなくなった園内で、動物たちはどのように過ごしているのか。千葉県の市川市動植物園(同市大町)を訪れると、そこには穏やかな日常とともに、微妙な変化もあった。【小林多美子】
同園ではレッサーパンダやコツメカワウソ、スマトラオランウータンなど55種類415頭が飼育され、2月27日から約2カ月半休園している。
5月14日に記者が訪れると、飼育員以外の人影の絶えた園内で普段通りの音楽が流れていた。「動物たちの環境を変えないように、園内放送はあえて止めずにいます」と飼育グループリーダーの田口健太郎さん。閉園時間を告げるアナウンスなども毎日流している。
エサやりも開園中と変わらない。動物たちは食べる場所や時間を覚えているためだ。午後1時半過ぎ、レッサーパンダがいつものように客から見えやすい柵の近くでリンゴをおいしそうに食べていた。
ヤギやウサギなどと直接触れ合える「なかよし広場」では、17歳のミニブタのキャサリンが穏やかな日差しの下で昼寝をしていた。飼育員の佐々木満瑠さんが「言いづらいのですが……。お客さんがいないのでのびのびとしています」と苦笑いした。キャサリンは開園時は高齢のためおりの中にいるが、今は広場の好きな場所で過ごしている。
一方で、張り合いを失っている動物もいるようだ。オスのスマトラオランウータンのイーバン。客の多い休日になると張り切って格好つけて歩いたり、腕でぶらさがって移動する「ブラキエーション」をしたりするという。「お客さんの反応がないとつまらないのか、自分の部屋にいる時間が増えました」と担当の水品繁和さんが話す。この日もイーバンは自室におり、放飼場にいたメスのスーミーと娘のポポが、久しぶりに現れた見知らぬ人間が珍しいのか、記者をじっと見つめた。
水品さんらと話していると、イーバンがいる奥の部屋から、ドンドンとドアをたたく音が聞こえてきた。「知らない声が聞こえてきて、緊張しているのかな」と水品さん。記者の声が聞こえないように離れると、しばらくして「ウォーーー」というイーバンの声が聞こえてきた。自分の存在を示す「ロングコール」という遠ぼえだという。「張り合いのなかった日々から、気持ちの張りが高まったのかもしれない。類人猿は認識力が高いので、変化を感じ取っている」と解説する。
休園中に、新たな命も誕生している。4月20日、ワオキツネザルに双子の赤ちゃんが生まれたが、愛くるしい姿を直接お披露目できていない。
動物たちの「日常生活」を支えているのが19人の飼育員だ。新型コロナの感染対策で、2班に分かれて事務室や更衣室も班ごとに別々にしている。田口さんは「動物たちは元気に過ごしているので、再開したら会いに来てほしい」と話した。
同園では公式ツイッター(@ichikawa_zoo)で、動物たちの動画や画像を発信している。