5月14日、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかけるために出されていた「緊急事態宣言」が39県で解除された。重点的に対策を講じるとして指定された東京・大阪など13の「特定警戒都道府県」のうち、茨城、石川、岐阜、愛知、福岡の5県も対象に含まれたが、宣言解除から一夜明けた15日には、久々に会社に出勤するという人も多く見られ、全国94地点中78地点で前日比0.1%~23.5%で人の移動が増加。解除が見送られた東京都や大阪府などでも、「自粛疲れ」による気の緩みもあってか、宣言解除に引っ張られるように街に繰り出す人の姿が目についた。
「新たな日常を一緒に作り出したい」
安倍晋三首相は記者団にこう語ったが、解除理由については「新規感染者が直近1週間の合計で10万人当たり0.5人以下に抑えられている」などと説明。特定警戒を継続する8都道府県に関しても、21日を目途に専門家の評価を受け「可能であれば(期限である)31日を待つことなく解除する」と強調した。
長い自粛生活にわずかな光明が差したかのように感じるが、本格的な経済・社会活動の再開に向けて弾みをつけるには課題も多い。元東京都知事で作家の猪瀬直樹氏が話す。
「今回の宣言解除は、重点項目をウイルス感染による死を防ぐことから、経済による死を防ぐフェーズにシフトさせたことを意味する。ただ、専門家会議が解除の基準を提示したことを受け、新しく経済の専門家をメンバーに迎えて設置した諮問委に諮り、主に閣僚からなる対策本部会合で解除を決めたが、会合に要した時間はわずか16分……。
首相の会見を見ても、官僚の書いた原稿を、プロンプターを通じて読み上げているだけなので、誰が、どのようなかたちで意思決定しているのかがまったくわかりません。
これでは、国民に情報は共有されずコンセンサスも得られない。専門家会議で尾身茂・副座長やクラスター班の西浦博・北大教授が前面に出ていたように、諮問委メンバーの声が聞こえるようにならなければ、意思決定のプロセスが透明であるとは言い難い」
国による緊急事態宣言の「解除」を受け、地方の自治体では歓迎と不安の声が入り交じっている。和歌山県の仁坂吉伸知事は「保健行政と市民の努力の足し算だ。今の状況であれば市民のほうは少し緩めてもいいかなと思う」と安堵する一方、東京から近い群馬県の山本一太知事は「残念だった……。ただ、解除されても油断できないという危機感を県民に伝えられた」と不安を隠さない。
一方、今回、解除が見送られた東京都では15日、小池知事が緊急事態宣言解除後の都独自の「緩和基準」を発表。新規陽性者(1週間平均)の数が「1日20人未満」など7つの条件が掲げられている。医師で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏が話す。
「経済とのバランスを考えて全国的に規制を緩めることには賛成です。ただ、感染者ゼロの岩手県と東京都を一緒くたに議論することはできないですから、政府が全国一律で決める問題ではない。今回、東京都が出した緊急事態宣言解除後の『7基準』は相応の妥当性があると思います。
当初国は37.5℃以上の発熱が4日間続くことを、PCR検査相談の目安にしたが、すでに撤廃したように、都の基準もかなりこなれたものなのは事実。
PCR検査の陽性率は、検査数によって差が出てくるし、入院患者数もいろいろな理由で動きますから……。重要なのは死者数を増やさないことに尽きる。今の段階で出した基準に拘泥せず、今後も出てきた数字に即して、臨機応変に対応するのがいいでしょう」
◆「入口」の“見える化”も重要
「出口」はもちろん、二度目の「入口」に関しても“見える化”しておくことが重要になってくるという。猪瀬氏が話す。
「『7基準』そのものに妥当性はあるが、自粛に応じる側の都民にすれば、シンプルな大阪モデルに比べてわかりにくい……。出口戦略にしても、大阪府の吉村知事は、緊急事態の終わり方のプロセスを“見える化”したうえで、経済活動を再開すると言っているが、東京都にはこれが欠けている。
会見でも、吉村知事が凝縮された言葉をコンパクトに紡いでいるのに対して、小池知事はテンポが遅く、昼のワイドショーの時間帯にいたずらに電波を独占しているようにも映る。
大阪府は医療スタッフを励ますための寄付を募り、基金をつくったが、東京都の創意工夫を小池知事が説明できなければ、都知事選対策と思われかねません。解除後、仮に感染が拡大してしまったら、再び緊急事態を再宣言する必要が出てくるが、2度目の入り口も“見える化”しておくことが重要なのです」
これからは、いかに具体的な施策を次々と打っていけるかで首長の手腕が試されるという。上氏が話す。
「一時は封じ込めに成功したとされる中国の武漢や韓国で集団感染が広がっているように、宣言解除後、もっとも大事なのは第2波対策です。ニューヨークの惨状を見ればわかるように、“中国型”が変異し毒性が強まったとされる“欧州型”のウイルスの日本上陸を阻止できなければ被害は計り知れない……。
すでに、便に大量のウイルスが潜んでいるという論文が英科学誌『ネイチャー』に掲載され広く科学的コンセンサスを得ているように、トイレはホットスポットと考えていい。
こうした手堅いデータを基に、自治体が独自に駅やコンビニのトイレを全面使用禁止するなどの具体策を講じる余地はある。都は東大の研究者と連携して下水のチェックを始めており、これにより流行の状況を予測すれば早期にアラートを出すことも可能となる。優秀な人的支援は重要で、大阪も本庶佑・京大名誉教授や山中伸弥・京大iPS研究所所長の存在が大きい。いい意味で中央に毒されず独自の対策を立てられる環境が整っている」
次は東京と大阪だ。国を向こうに回して、競い合うように「出口戦略」を練ってもらいたい。
◆緊急事態宣言解除自治体以外でも「緩み」が……
16日、西村康捻経済再生担当相は会見で「あちこちで気の緩みがみられると大変心配している」と話した。39県で緊急事態宣言の「解除」が発表された当日、「解除」が見送られた東京でも外出する人が増え、渋谷のセンター街では前日比13.1%増、北海道の歓楽街であるすすきので19.7%増、大阪・難波でも5.3%増を記録した。
<国が示している緊急事態宣言の「解除」基準>
【感染状況】
▼直近の1週間の新規感染者がその前の1週間を下回り減少傾向となっている
▼新規感染者数が10万人あたり0.5人未満に抑えられている
【医療提供体制】
▼感染者が今後急増しても対応できるよう病院のベッド数や宿泊施設を十分確保している
【検査体制】
▼PCR検査など新規感染者数の動向を把握し、感染者が拡大した場合に備えられる
……などの点を総合的に判断する
<「再指定」基準>
▼直近1週間の人口10万人あたりの累積報告数
▼直近1週間の倍加時間
▼直近1週間の感染経路不明の症例の割合
……などの点を総合的に判断する
●緊急事態宣言の解除後、休業要請の緩和に向けた東京都の「7基準」
1 新規陽性者(1週間平均) 1日20人未満
2 感染経路不明(1週間平均) 50%未満
3 陽性者増加比(週単位) 1未満
4 重症患者数
5 入院患者数
6 PCR検査の陽性率
7 受診相談件数
▼「東京アラート」……7つの指標を1つでも超えた際に発動され、複数の指標を超えた際には休業や営業時間の短縮が再要請されることになる
●大阪府の警戒解除基準「大阪モデル」
1 新規の感染経路不明者数 10人未満
2 PCR検査の陽性率 7%未満
3 重症病床の使用率 60%未満
※①~③の基準すべてを7日連続で満たせば段階的解除
<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/時事通信社>
※週刊SPA!5月19日発売号より