◆誤報に釣られSNSで主催者をくさす人々も
6月6日に行われたツイッタージャパン社前での抗議活動について毎日新聞社が同日夜、抗議活動の趣旨について実際とは異なる内容を報道した。これについて筆者が抗議活動の主催者に事情を確認の上、毎日新聞社に取材を申し入れたところ、同社は翌日に問題の記事と動画を削除。こちらの質問に対して具体的な回答を一切せず、「取材の過程で行き違いがあることが判明しました。このため、該当記事はウェブサイトから削除しました」とだけ回答した。
実際の抗議活動は、Twitterにおける差別投稿やヘイトスピーチの放置といった「差別投稿問題」と、差別を批判する側のアカウントへのツイッター社による「不当凍結問題」に抗議する趣旨だった。しかし毎日新聞の記事は、先月亡くなったプロレスラー・木村花さんをめぐって現在問題されているネット上での誹謗中傷についての抗議であったかのような内容になっている。
現地でのスピーチやシュプレヒコールでは、木村さんをめぐる誹謗中傷問題は一切話題に上っていなかった。毎日新聞の後藤由耶記者のインタビューを受けた際も主催者はこれに言及していなかったが、後藤記者が敢えて無関係な木村さんのケースを持ち出して主催者に語らせ、さもそれが抗議の趣旨であるかのような記事を執筆した。
抗議活動を主催するのは今回が初めてという主催者の女性は筆者の取材に対して、「事前のコメント確認の際に異を唱えたが、後藤さんに受け入れてもらえず引き下がってしまった。掲載された毎日新聞の記事を見てショックを受けた。(コメント確認時に断固として拒否しきれなかった)自分が世間知らずだった。もうこういった活動はしたくない」と語っている。毎日新聞社への抗議や記事の削除要求等は表明していない。
毎日新聞が削除した記事の全文は、以下の通り。
※記事中の「○○さん」は主催者及び被取材者の氏名。「●●さん」は別の参加者の氏名。筆者が伏せ字とした。記事の転載は主催者及び被取材者の了承を得ている。
同社の報道を受けて、「カルト問題」や「表現の自由」関連の活動で知られる山口貴士弁護士はTwitterとFacebookで「他人の死を利用する反ヘイトの方々」と投稿。決して多くはないものの他のユーザーからも、毎日新聞の報道をもとに抗議活動を疑問視する投稿が見られた。
〈そもそも木村花さんが受けてた言葉の攻撃媒体ってInstagramだったはずなんで、何故Twitterに行ってるのか意味不明〉
〈木村花さんに対する誹謗中傷の主な場はTwitterじゃなくInstagramだったはずだが。。。 この程度の雑な認識で社会を変えようとしないで欲しいわ。。。〉
木村さんへの誹謗中傷はTwitter上でも行われていた。しかしそれはそれとして、毎日新聞の報道が、抗議活動を愚かな活動だと捉える人々を生み出した。主催者だけではなく抗議に参加した全ての人々の声を蔑ろにする報道で、主催者・参加者への非難や誹謗中傷が殺到する「炎上」に至らなかったのは不幸中の幸いだ。
SNS上で抗議活動を腐した人々も、大手新聞社による映像付きの報道を見て、まさかここまで極端に事実に反する報道だとは、通常はなかなか想像できないだろう。決してメディアとの付き合いが浅いわけでもない弁護士ですら、これなのだから。
日頃から反差別運動やその関係者を腐したいという意識を持っているがゆえに、嬉々として毎日新聞の報道に乗っかった人も中にはいるかもしれないが、全ての原因と責任は毎日新聞にあり、上記のSNSユーザーたちはそれに釣られただけの、これもまた被害者だ。
◆無関係な話題について言質を取る取材手法
筆者もこの抗議活動を取材しており、毎日新聞の後藤由耶記者による主催者女性へのインタビュー途中から、すぐ脇で聞いていた。改めて、現場でのやり取りの詳細を振り返ってみたい。
女性が後藤記者にデモの趣旨について説明し、「大阪からツイッタージャパンに乗り込んで抗議してやろうと思って来ました」と語った後、後藤記者の方が唐突に、木村花さんの死去の件を持ち出した。以下が、質問時の後藤記者の全発言である。
「もともとTwitterユーザーなわけですよね。で、たとえば、最近でいうと、ヘイトだけではなくて、凍結だけではなくて、その、プロレスラーの(木村)花さんに対する暴言とか、放置されているという問題もありますけども、そういう部分で、ユーザーとして日々感じている違和感みたいな、おかしさみたいなものも含めて、ちょっと教えていただけたら」
筆者がこの場に居合わせたのは後藤記者のこの発言の直前からで、その前のやり取りは聞いていない。しかし「ヘイトだけではなくて、凍結だけではなくて」という後藤記者の口ぶりから、抗議活動の趣旨説明に含まれていなかった木村さんの件を持ち出していることがわかる。「ユーザーとして日々感じている違和感」と称して尋ねている点とあわせれば、後藤記者が抗議の趣旨でないことを承知の上で、女性に対して主催者の見解と別途く「個人的意見」を求めているだけであるかのように装って主催者を油断させようとしていたこともわかる。
後日女性は筆者の取材に対して「花さんの件はもちろん重要な問題ですが、あの日のツイッター社への抗議の理由ではなかったので、何と答えていいかわからずものすごく悩みながら答えた」と語った。このことは、後藤記者の問いに対する女性の発言を見ればよくわかる。以下、その部分の全発言だ。
「特に日本は、ヘイトほど野放しにされている。憎悪とかそういうものは野放しにされていて、逆に凍結理由がないアカウントとか、物申すアカウント、影響力があるアカウントばかりが凍結されるという事態が、ここ最近ではなく、ずーっとここ何年か続いていると思うんです。それに対して、ツイッタージャパンというのは一応公的な機関ではなく私企業だと思うんですが、世界中で言論のプラットフォームとして大きな役割を担っている。アメリカなんかでは、トランプ大統領に対しても規制をかけるという、暴力や差別というものにはきちんと言論プラットフォーム、ツイッターは戦うんだと明確にしていたにも関わらず、全く違うというか最悪の対応をするツイッタージャパンに対して、言葉は人を殺しますから、それを放置しているということは、どうなんだろうと。企業倫理としてはあり得るのかなって。一つ一つの言論を取り締まっていくということは非常に難しいことなのかもしれないけれども、こうやって花さんが殺されてしまった、殺されてしまったと言って過言ではないと思うんですけれども、そういう憎悪というものを放置しているとか、差別のツイートを放置しているとかいうのは、暴力に加担していると言われても仕方がない対応なのではないかと。ありえないですよ。このクソ野郎って言いに来ました」
女性が、抗議活動の本来の趣旨から外れないようにしながら、何とか記者の質問に応えるべく話をつなげたといった流れだ。毎日新聞が記事や動画で木村さん関連のコメントとして(あるいはそうであるかのような位置づけで)利用したのは、上記の太文字の部分(“言葉は人を殺しますから、それを放置しているということは、どうなんだろうと。企業倫理としてはあり得るのかなって”、“こうやって花さんが殺されてしまった、殺されてしまったと言って過言ではないと思うんですけれども、そういう憎悪というものを放置しているとか、差別のツイートを放置しているとかいうのは、暴力に加担していると言われても仕方がない対応なのではないかと“の2箇所)である。
インタビュー後、主催者女性はマイクを持ちスピーチをしている。そこに、木村さんに関する話題は一切登場しない。スピーチの全文は、6月8日付け本誌差別野放しで反差別アカウントは凍結のツイッタージャパン社に100人が抗議に掲載している。
約100人の参加者たちが掲げたプラカードにも、木村さんの件でツイッター社を批判するものはなかった。筆者が記憶していないだけで実際にはあった可能性は否定できないが、いずれにせよ抗議の主要趣旨である差別投稿問題と不当凍結問題に関するプラカードが大半だった。毎日新聞が掲載した動画にも、木村さんに言及したプラカードは映っていない。こうした抗議活動の一部始終を、後藤記者も当然、現地で見ている(動画を撮影していたのだから当然だ)。
現場で飛び交う様々な意見や論点の中から、どれを重視するかという判断の問題ではない。現場を取材した後藤記者が「誤解」する要素も一切ない。後藤記者は、抗議活動と無関係であることを承知の上で、主催者に対して自ら敢えて木村さんの件を持ち出して喋らせる「誘導尋問」を行い、それが抗議の趣旨であるかのように報じた。判断ミスでも誤解でもない。意図的な「取材対象者を騙して協力させたヤラセ報道」、あるいは「捏造」と言っても過言ではない。
詳細は後述するが、主催者女性は記事確認時に内容に異を唱えたが、後藤記者に「デスクがどうしてもと言った」と押し切られたという。この説明が仮に事実だとすると、組織ぐるみのやり口ということになる。
後日、女性は筆者に、こう語った。
「花さんの件はとても痛ましく重大な問題。“今日の抗議活動と関係ない。知らんがな”みたいに突き放せる話題ではありませんよ。それで、悩みながらも答えたのに、(こういう報じ方をする)マスコミってひどい。私はマスコミ対応なんて初めてですし、やめてくれと言っても“デスクの指示だ”と言われて拒まれたら、会社の決定なのだと諦める以外にないじゃないですか。もう落ち込んで落ち込んで……。こういった運動は、私にできることじゃないです」
こうした取材手法と報道によって、市民運動の当事者の意欲を削ぐ。毎日新聞が民主主義社会におけるメディアの役割を自らが破壊する行為ではないのか。
◆記事と動画を削除してトンズラ
6月8日に筆者は毎日新聞の後藤記者に電話で取材を申し込んだが、「取材は広報を通してほしい」とのことだった。同日夕方、筆者は同社の広報担当者にメールで取材申し入れを行った。その時点で筆者が認識している経緯を記し、事実関係の確認と同社の見解を求めた。翌9日、主催者の女性は毎日新聞写真部長を名乗るH氏から電話で「話を聞きたい」との連絡を受け、夕方、折り返し電話をかけた。
電話の内容は後述するが、同9日の夜7時頃に毎日新聞はウェブサイト上から抗議活動に関する記事と動画を削除。筆者宛にメールで回答した。その内容はたった2文。
「取材の過程で行き違いがあることが判明しました。このため、該当記事はウェブサイトから削除しました」
筆者が送った質問項目に対する回答は、一切なかった。筆者は「今後の対応」については何も尋ねていない。毎日新聞社の対応は「聞かれたことに答えず、聞かれていない内容を告げることで、回答はしたという体裁をとる」というもの。事実上の取材拒否。記事を削除しての逃亡である。
主催者の女性に対する謝罪はなく、本稿執筆時点では訂正等も掲載されていない。記事や動画を削除して「なかったこと」にしたつもりかもしれないが、毎日新聞の記事に基づいて抗議活動の主催者や参加者をくさした者たちが誤りに気づく手段はなく、それらの投稿はいまもSNS上を漂っている(前出の山口弁護士は知人なので、筆者は直接、問題の存在は伝えた)。
◆主催者の意図と真逆なことに利用されかねない
毎日新聞は、木村花さんの一件にからめることでウェブ配信する記事のPVを稼ぎたかったのか。あるいは、木村さんの死を発端にネット上の誹謗中傷に対する対策を推し進める声があるため、そういった議論を盛り上げることに利用したかったのか。
実際、毎日新聞のウェブサイトには、6月6日の抗議活動以前から、木村さんをめぐる誹謗中傷の問題とツイッターなどSNSの課題に関する記事がいくつも掲載されている(問題の重大さからして、それ自体は何ら不思議もない)。抗議活動の当日、6月6日の早朝5時には「不適切投稿者情報“任意開示”、判断難しい」 ツイッター日本法人部長「人員、システム強化で対策」と題してツイッタージャパンの服部聡・公共政策本部長のインタビューを掲載。抗議活動の翌日7日にも「権利侵害の有無、判断難しい」ツイッター日本法人、不適切投稿と「言論の自由」の板挟みに、中傷投稿「開示の判断困難」 ツイッター社「監視強化し改善」として、服部氏への取材に基づく記事を掲載している。
いずれも木村さんの件にからめて報じているが、毎日新聞の記者(後藤記者とは別人)が木村さんの件について話を振りツイッター社側がそれに一言答えている程度。ツイッター社側から木村さんの件については一切語っていない。違反投稿の監視体制や対応の課題についての一般論を語っているだけだ。逆に、これらの記事の中で毎日新聞側が「新型コロナウイルスの感染拡大で医療従事者への差別的な書き込み」に言及しているものはあるが、人種差別に言及しているものはない。
このシリーズの真っ最中の6日昼過ぎにツイッター社前での抗議活動が行われ、毎日新聞は今回の誤報記事を同日深夜に掲載している。外見上、「ちょうどいいから、ツイッター社へのインタビュー記事と同じ調子で木村さんの件にからめて盛り上げようぜ」という流れに見えなくもない。
主催者の女性は、こう語る。
「花さんの事件があった後、政府が異様に早いスピードで規制強化に向けて動き出している。非常に危険な動きだと思います。明らかな差別、レイシズムなどに関しては規制をすべきだと思いますが、誹謗中傷までを含めると線引きが難しく、言論統制につながっていく危険も出てきます。私があたかも花さんの件についてツイッター社に抗議して誹謗中傷への取り締り強化を要求したかのように報道されると、その点で本末転倒になる。私が納得いくいかないという気持ちの問題ではなく、私の考えとは全く逆の動きに私が加担することになるわけですから」
今回の抗議活動では主催者とは別の関係者のスピーチで、差別投稿問題と不当凍結問題という趣旨に関連して、ツイッター社が自民党と関わりが深い日本青年会議所と提携しているなど政権寄りの体質を持った企業である点にも言及され批判されていた。差別を批判するアカウントの多くが安倍政権に対しても批判的投稿をしてきた一方で差別発言をする保守系著名人のアカウントによるヘイトスピーチ等が放置されているTwitterの現状を、政権寄りあるいは右派優遇として批判するニュアンスも含んだ抗議活動だった。
「誹謗中傷」問題をめぐってはTwitter上で、公人である安倍晋三首相や安倍政権への批判を「誹謗中傷」だと主張する人々までいる。今回の抗議活動が政権による「誹謗中傷」規制を後押しする内容であったかのように報道されるのは、確かに本末転倒だ。
毎日新聞側がそれを意図していようがいまいが、今回の同社の報道はこうした問題も孕んでいる。
◆毎日新聞社からの謝罪なき「事実確認」
前出の毎日新聞社・写真部長のH氏が主催者女性に電話で話した内容を紹介したい。同社の姿勢や手口がよくわかるという点で、広報窓口を通した取材よりよっぽど「有意義」な内容だった。
電話は約20分間。H氏が慇懃な口調で主催者女性に伝えた内容は、要約すると以下のようなものだ(一部、実際の発言を文言通り引用)。
・「弊社で行った取材で、少しご迷惑をかけてるようなことをお伺いしたので、お電話を差し上げているところなんですが。事実関係を少し確認させていただきたくて、お電話をさせていただきました」(電話の実際の発言ママ)
・後藤記者が掲載前に〇〇さん(主催者)に記事と動画のURLを送り、〇〇さんは「上手くまとめていただきありがとうございます」と言ってきたという報告を受けている
・「デスクがどうしてもと言った」と後藤記者が言ったかどうかについては、意見の相違であり言った言わないの話になるのでわからない(具体的にどう意見が相違しているのかは全く説明しなかった)
・「弊社のいま上がっている動画と原稿については、いまはどうしてほしいっていう風にお考えですか?」(同)
・「私もちょっと取材の仕方が少し足りなかったのかなと、まあ私の感想としてはそう思ってるんですが」(同)、「その辺は少しこちらの方で考慮させていただいて、今後の取材の、何ていうんですか、今後の取材に活かしていきたいなと思っておりますので」(同)
・「(記事を)取り下げられるものかどうかっていうのを少し検討させていただきます」(同)
・机上でニュースを組み立ててから現場の記者に取材させるということは、弊社ではしていない
おわかりだろうか。事実関係の確認だと言って連絡しておきながら、H氏が主催者女性に確認したのは、「上手くまとめていただきありがとうございます」と言ったではないか、という1点だけだ。
「デスクがどうしてもと言った」かどうかについては、H氏は「言った言わないの話」として片付け、詳細を確認しようとしない。女性が説明しても意見の相違だと言い張って受け付けない。後藤記者が取材時に全く話題に上っていなかった木村花さんについて敢えて持ち出して主催者女性にコメントさせた取材の手法や経緯についても、H氏は女性に事実確認をしていない。
筆者は同社への取材申し入れ書で、これらの一連の経緯についての事実確認も求めていたが、同社はハナっから確認する気などなかったというわけだ。
H氏の言葉遣いは一見、誠実そうではあるが、実際に語っている内容はかなりえげつない。
H氏は後藤記者の「取材不足」を認める発言を一応しているものの、「まあ私の感想としては」というエクスキューズを付けている。個人的感想であり社として公式に認めたわけではないという言い訳の余地を残す言い回しだ。「申し訳ない」とか「お詫びします」といった謝罪の言葉もそれに類するものも、「個人的感想」としてすら口にしなかった。
そもそも、この問題は「取材不足」によるものではない。現場に存在していない要素について、後藤記者が取材対象者に対して誘導尋問的に語らせ、それが趣旨であるかのように事実を違える記事を書いた。「取材不足」のむしろ逆で、「存在しないものを存在するかのように見せるためのよけいな取材」を行った結果だ。
H氏は被害を受けた側に対して「どうしてほしいのか」などと尋ねている。交通事故の示談交渉に来た保険屋さんのように、第三者気取りだ。繰り返すが、電話の主は毎日新聞社の写真部長。問題の当事者である毎日新聞社、つまり加害者側の人間である。
主催者女性によれば、動画を確認し「上手くまとめていただきありがとうございます」とした発言は、木村さんに関するコメントを使わないよう求めたことに対して後藤記者から修正を拒まれ、「デスクがどうしてもと言った」という話を聞かされた後のことだという。女性の説明通りだとすると、後藤記者がまず「デスクの指示」を理由に女性の要望を拒んで諦めさせ、その後に女性が「ありがとうございます」と言ったという点だけを写真部長があげつらって「同意したではないか」と突きつけているという構図だ。
まるでセクハラ問題を揉み消そうとするおっさん集団の手口ではないか。セクハラ被害者に対して「その後も加害者と笑顔で会話していたではないか」と言って泣き寝入りさせようとするのと同じ、セカンドレイプ方式の組織防衛術だ。実際に筆者は20年近く前、筆者自身が所属していた団体が幹部によるセクハラ問題を揉み消す際にこうした論法を取ったのを目の当たりにしたことがある。
そして写真部長H氏の会話の手口は、後藤氏による取材手法と同じ。相手から「言質を取る」作業である。「上手くまとめていただきありがとうございます」との発言を女性が認めたという言質を取る。女性が「記事と動画の削除を求めている」という言質を取る。女性の言い分は認めず、都合の悪い部分についての事実確認を避け、デスクの指示はなかったという点だけは理解しろと女性に念押しする。
女性は、電話でハッキリと反論している。
「私はでも、この耳でハッキリ聞いたので。『デスクが取ってこいと言ったので』っていう風に。『どうしても取ってこい』と。花さんのコメントを」(電話での発言ママ)
「じゃあそれは後藤さんが勝手に作った話ということ? 私、マスコミも素人ですし、こんな対応も素人ですし、私の頭の中に『デスクが言った』というような、物事の成り立ちがあるということ自体、私は存在自体を知らないわけですよ。だけど、このように言われて、『あ、そういうことがあるのか』と。『そういうことがあるのか』と思って、だからものすごく印象深い言葉として残っているんですよね」(同)
これに対してH氏は、こう答えた。
「正確にどう言ったかってのはあれとして、実際その、うちのデスクに聞いてみましても、ま、今回の件についても、他の件についてもそうですけど、もともとニュースを机上でね、机の上で決めて、それから取材を挙行するっていうことはなくて」(同)
「今回の場合は、やっぱり誹謗中傷と差別・レイシズムっていうのの明確な違いっていうのを記者が見抜けなかったという部分は、確かにあるのかなという風に考えてます。(略)その辺は少しこちらの方で考慮させていただいて、今後の取材の、何ていうんですか、今後の取材に活かしていきたいなと思っておりますので」(同)
これに対して女性は「わかりました」と答えた。
女性は「デスクの指示」をめぐる後藤記者の発言について説明しているのに、H氏は「正確にどう言ったかはあれとして」で片付け、「誹謗中傷と差別・レイシズムの違いを記者が見抜けなかった」問題に話をすり替える。そのまま「今後の取材に活かしていきますので」という言葉で女性に「はい」と言わせて一丁上がり。女性の言い分には一切同意せず、女性がH氏の説明に納得したかのような言質は取りましたよ、というわけだ。
◆「広報を通して」とだけ言った後藤記者からも女性には連絡なし
一方、筆者の取材に対して「広報を通して」と言うだけで口をつぐんだ当の後藤記者からは、女性に対する連絡は一切ないという。当然、事情説明も謝罪もない。「言質を取る」のが仕事なのだから、逆に「言質を取られないようにする」のも大事な仕事ということか。
「言質は取っても取られるな」
毎日新聞社の標語にして社屋に垂れ幕でも出したらいい。
H氏からの電話の後、一連の毎日新聞社の対応も含めて、改めて女性にコメントを求めた。
「こちらが何も要求してないうちから、記事の削除を申し出てきたので、どういうことだろうと思った。そもそもどうして欲しいなど、現段階で考える余裕がないほど、疲れ切っています。それは先方にも伝えました。私はむしろ、記事の削除より、謝罪のほうがほしかったです。これではまるで私が“意にそぐわない記事を削除させた”と捉えられても仕方なくなりますし、第一、そんなことは正式に要求などしておりません。肝心のデスク云々というところが公になるのを嫌って早々に削除したとしか思えないし、そんな簡単に削除できる記事なら初めから書かなければいいじゃないですか。何もわからん素人だと思ってぽろっと口に出てしまった“デスクの指示”という言葉。これが今回の問題の本質であることは、この電話のやり取りでよくわかりました」
女性は毎日新聞社に抗議をする等の行動は一切とっていない。記事掲載後に自分から連絡を入れることすらしていない。抗議活動後に、それまでの準備の疲労や心労からか体調を崩し、点滴を受けるため病院に通っているという。毎日新聞社に対して抗議をする余裕がない状態だ。女性は、この件について何一つ騒ぎ立てていない。
私は今回、知人からの知らせで毎日新聞の記事の存在を知り、主催者の女性に連絡をとって私の方から事情を尋ねた。筆者の方から女性に対して、記事にさせて欲しいと頼んだ。言質を取ったのではない。きちんと明確な了承を得て、原稿内のコメントや事実関係についても確認してもらい了承を得て掲載している。
<取材・文・撮影/藤倉善郎>
【藤倉善郎】
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)