「わかりやすく」で失った「事実」 多角的な視点と議論の徹底を NHK黒人動画問題

アメリカで黒人男性が白人警察官に殺害されたことから広がった人種差別の抗議デモを、NHK総合テレビ7日放送の「これでわかった!世界のいま」が取り上げたところ、その内容、特にアニメーション部分に多くの批判が寄せられた問題。NHKはアニメ、続いて番組をネット上から削除し、14日の番組冒頭で国際部長が出演し謝罪した。
この問題では、ヤング駐日臨時代理大使が自身のツイッターで、「米国の複雑な人種問題に焦点をあてようとするNHKの意図は理解していますが、この動画ではもっと多くの考察と注意が払われるべきでした。使われたアニメは侮辱的で無神経です」と異例の発信をした。アメリカ研究者も「看過できない内容が含まれている」として、問題認識や経緯、再発防止策を明らかにするよう求める要望書をNHKに送るなど、反響が広がっていた。
番組では、国際部長が「黒人の人たちの描き方については人権や多様性に対する認識が甘かったと思います」とし、「あらゆるテーマについて多角的な視点を持ち、丁寧に議論しながら取材・制作にあたります」と説明した。

かつてNHKには、総合テレビで火曜夜7時半から30分間放送の「NHK特派員報告」(1964年4月~78年3月)という看板番組があった。
海外ニュースといえば、当時は新聞、ラジオ、雑誌、今はなくなってしまったニュース映画、そしてテレビで知るほかにすべがなかった。だからこそ、荘厳なテーマ音楽とともに始まり、フィルムによるドキュメンタリーは実に見応えがあり、そしてテレビ映像ならではの驚きが、子どもだった筆者にもダイレクトに伝わってきた。この番組を見て記者を目指した人も少なくない。
今は、当たり前だけれど、マスコミ報道よりも早く、トランプ米大統領のツイッターがダイレクトでスマホに飛び込んでくる時代。翻訳ボタンを押せば、瞬時に日本語訳だってしてくれる。
現代は、新型コロナウイルスの問題さえなければ、誰もが気軽に海外旅行に行ける時代。そして、国境を超え、あらゆるメディアに手軽に触れられる時代。海外旅行もままならず、メディアが限られていた時代とは違った切り口、違った手法が報道には求められる。
「これでわかった!」は、国際部長が説明していたように、「子どもたちにもわかりやすいように伝えるため」に、2017年4月に始まった番組。学校の教室をセットにし、アニメを多用する一方、その内容について批判が寄せられたこともあった。
今回、アメリカを含め海外でもすぐに報道され、大使がコメントを出したからなのかどうかはわからないが、NHKの反応は早かった。アニメ動画を削除し、NHKプラスの見逃し番組配信もその後削除して、おわびの文も再三書き直した。
この番組に限らず、「NHKニュース」や「日曜討論」など、番組中や番組直後にツイッターで批判が書き込まれることも少なくない。「あらゆるテーマについて多角的な視点を持ち、丁寧に議論しながら取材・制作にあたります」が本当に徹底されていれば、出演者の発言への賛否を別にすれば、そこまで批判を招くことは多くないと思われるのだが。
「わかりやすくする」ために作ったアニメで視聴者が「これでわかった!」となるどころか、作った側が「わかっていなかった」というのは相当深刻だ。さらにこの番組、他の番組では最後に出てくる番組制作者名などが一切出てこないのも妙だ。
「子ども向け」の演出はいいけれど、内容の演出は勘弁してほしい。「わかりやすく」したために大切な何かをなくしてしまったとしたら、それを取り戻すには、小手先の修正ではいかないはずだ。【油井雅和】