相次ぐ助成金不正 「性善説」で進むコロナ支援も標的

非正規労働者の待遇改善を支援する国の助成金をだまし取ったとして、経営コンサルタント会社の男らが4月までに大阪府警に摘発された。男らはセミナーで「労せずお金をもらえる制度がある」などと勧誘。3年余りで計約1億3千万円を詐取していた。背景にあるのは、非正規労働者の待遇改善に対する注目の高まりと、それに伴う申請数の急増だ。最近は新型コロナウイルスの感染拡大に伴うさまざまな給付金や貸付制度が設けられており、警察当局などはこれらの不正受給にも警戒を強めている。
研修してないのに…
「コンサルを受けたらお金をもらえます」。コンサル会社顧問の30代の男らは数年前から、セミナーに集まった接骨院の事業主らにこんな誘いをかけていた。だが、実際に事業主らに持ち掛けていたのは、公金詐取への協力だった。
狙われたのは非正規労働者の待遇改善を目的に平成25年に創設された厚生労働省の「キャリアアップ助成金」制度。非正規労働者への賃金を増やしたり、健康診断を行ったりした事業者に国が助成金を支給するというものだ。
男らはこの制度で、職業訓練を実施した事業者に最大500万円が支給されるという項目(30年度からは別の制度と統合)に注目。接骨院やクリーニング店といった小規模事業主らに対し、実際には実施していない研修を雇用している非正規労働者に行ったと申請書類に記入するよう指示した。助成額水増しのため、休眠会社の名前を使ったり、知人を従業員と偽ったりして大阪労働局に申請させることもあったという。
詐取金は25年から28年までに計約1憶3千万円。共犯となった事業主らは30人近くに上り、男らは成功報酬として助成金の2~3割を受け取っていたという。
「審査の数多い」
同制度を悪用した事件は過去にも発生している。30年には非正規労働者を正規社員に登用した企業に助成金が支払われるコースを悪用、助成金をだまし取ったとして、神戸地検が行政書士らを詐欺容疑で逮捕している。男らは元々正社員だった従業員を契約社員から登用したように装う書類を提出し、助成金をだましとったとされる。
厳正な審査が求められる助成制度で相次ぐ不正受給。これは非正規労働者の待遇改善を求める声の高まりとともに、キャリアアップ助成の申請件数が急増していることが一因となっているようだ。
厚生労働省によると、同制度の申請は27年度が約4万7千件だったのに対し、30年度は約9万3千件とほぼ倍増。不正受給も27年度の15件から30年度は70件と増えた。
大阪府警が摘発した事件の舞台となった大阪労働局でも、27年度に約8400件だった申請数は30年度には約1万7千件にまで増加。労働局の担当者は「不正受給が発生したことは重く受け止めている」としつつ、「職員1人あたりの審査の数は多くなっている」と明かす。必要があれば実地調査も行うが、申請の急増により書類審査が中心となる現場も多いという。
混乱に乗じ…
殺到する申請になかなか対応が追いつかない。こうした状況は新型コロナ禍を受けた助成制度でも生じている。
これまでに、政府は事業者に対する「持続化給付金」や家計への支援を行うための1人当たり10万円の「特別定額給付金」といった支援策を実施。各自治体も独自の補助制度を次々と打ち出しているが、多くで給付遅れが指摘され、批判が強まっている。
そんな中、愛知県警は17日、休業要請期間中に営業していたにも関わらず、県から休業協力金50万円をだまし取ろうとしたとして、キャバクラ店の関係者を詐欺未遂容疑で逮捕。兵庫県警も5月、収入が減った世帯に貸し付ける「緊急小口資金」10万円をだまし取ったとして、詐欺容疑で無職の40代男を逮捕した。
安倍晋三首相は持続化給付金について「不正受給がない前提の)『性善説』で入金を進めていく」と言及。現場はスピード感を重視した対応を進めているが、混乱に乗じるのが詐欺グループの常套(じょうとう)手段だ。今後も同様の手口が増える懸念があり、警察当局などは警戒感を強めている。