石綿救済基金の残高789億円に 肺がん認定、想定の6分の1止まり クボタショック15年

アスベスト(石綿)が原因で中皮腫や肺がんなどを発症した一般住民を救済するため国が2006年に創設した基金の残高が増加し、18年度末で約789億円に上ることが環境省などへの取材で判明した。肺がん患者が救済制度の網から漏れているため基金が有効に使われていない可能性がある。石綿の健康被害が一般住民に広く及んでいることが発覚した「クボタショック」から今年で15年。救済制度のあり方が問われている。
国は06年3月、労災補償の対象にならない一般住民を救済するため「石綿健康被害救済法」を施行。国が医学的所見をもとに認定した患者に医療費や月約10万円の療養手当などを給付する救済基金がつくられた。18年度末までに、総額約460億円を認定患者に給付した。
環境省などによると、基金にはこれまで、国が計386億円、都道府県が計92億円を拠出。このほか、労災保険に加入する全事業者から年間計数十億円を徴収し、石綿関連企業からはさらに上乗せして徴収している。06年度末に323億円だった基金残高は年々増え、14年度から事業者拠出額を減らしたが、16年度以降は800億円弱で高止まりしている。
残高が膨らんだ背景には、当初は中皮腫と同程度と見込んでいた肺がん患者の認定者数が大幅に少ないことがある。20年5月末時点で2089人で、中皮腫(1万2627人)の約6分の1。中皮腫と異なり、肺がんは喫煙など石綿以外の要因でも発症する。そのため、肺がんになっても申請しない人がいる上に、申請しても認定されない患者が多いとみられる。しかし、国際的な研究では石綿由来の肺がんの死者数は中皮腫の2倍以上とされている。
他方、救済法の給付内容への不満も多い。一般に労災と比べて金額が低く、労災にはある遺族年金もないからだ。特に中皮腫は治療が難しく、体調が急激に悪化して仕事を続けられず、1~2年のうちに亡くなるケースが少なくない。患者や遺族は「現状では生活を支えられない」と訴える。
石綿問題に詳しい専修大の阪本将英教授(環境経済学)は「基金が800億円近くまで積み上がったのは、肺がん患者を適切に認定できず、制度に『隙間(すきま)』があるからだ。肺がんの認定基準を見直すとともに、給付内容を生活が成り立つ水準まで上げる方向で考えるべきだ」と指摘する。
環境省は基金残高の多さや救済制度の見直しについて「現時点で対応が必要とは考えていない」としている。【柳楽未来】
アスベスト(石綿)
天然の繊維状の鉱物で、安価で耐火性や断熱性が高く、建物の建材などに広く利用された。2006年に使用が原則禁止されるまで国内に約1000万トンが輸入され、今でも多くの建物などに残る。平均40年の潜伏期間を経て、中皮腫や肺がんなどを発症する危険性があるため「静かな時限爆弾」と呼ばれる。国内の中皮腫による死者は18年が1512人で、国が統計を取り始めた1995年の3倍以上になった。
クボタショック
2005年6月、大手機械メーカー・クボタの旧神崎工場(兵庫県尼崎市)周辺の住民5人が、アスベスト(石綿)関連がんの中皮腫を発症し、うち2人の死亡が発覚。その後も住民らの発症が相次ぎ、社会問題になった。国は06年3月に「石綿健康被害救済法」を施行し、被害を認定した周辺住民らに療養手当などを支給し始めた。被害は尼崎市に限らず、各地で明らかになっている。