大阪府の吉村洋文知事(45)は、新型コロナウイルス対応で記者会見に連日応じ、時にはテレビのワイドショーにも出演して、府の最新情報や方針、自身の考えを説明してきた。甘いマスクと、弁護士らしい論理的な語り口が好感を持たれた。
その発信力は、「広報上手」とされる東京都の小池百合子知事以上で、毎日新聞の「新型コロナウイルス対応で評価する政治家」という世論調査で断トツとなった。
それまで全国的には「橋下徹・大阪市長の任期満了に伴う市長選挙で当選し、その後、府知事になった」ぐらいのイメージだったが、お茶の間のヒーローになった感すらある。今回の新型コロナウイルスで、最も株を上げた人物といえる。
与党からも、「吉村氏は良くやっている。弁護士だけあって、法的根拠をもとに、言うこと、やることが分かりやすい。それを実施する態勢も整えている」と評価する声が上がる。もっとも、「国が出口戦略を示さないので私がやる」と、西村康稔担当相にケンカを売ったのは勇み足だった。だが、すぐ素直に謝ったことで、かえって評判を高めた。
大阪生まれの大阪育ちだが、「コテコテの浪花の人」を感じさせないスマートさも人気の秘密だ。駆け出し弁護士時代を東京で過ごしたことが関係しているのかもしれない。それに何と言っても魅力は、1975(昭和50)年生まれの45歳という若さだ。知事では、北海道の鈴木直道知事(39)に次ぐ。
吉村氏の台頭は、政治分野でも「昭和50年世代」が芽を出し始めていることを実感させる。
国政レベルでいえば、安倍晋三首相は1954(同29)年生まれ、菅義偉官房長官は48(同23)年生まれで「昭和20年世代」だ。
「ポスト安倍」候補とされる、自民党の石破茂元幹事長と岸田文雄政調会長はともに57(同32)年で、コロナ対策で脚光を浴びた西村担当相は62(同37)年、河野太郎防衛相は63(同38)年で、「昭和30年世代」だ。
「昭和40年世代」に大臣経験者は多くなく、「昭和50年世代」となると、小泉進次郎環境相=81(同56)年生まれ=以外に全国的知名度がある政治家は見当たらない。
それでも、「昭和50年世代」の国会議員は、衆参で100人近くおり、やがて吉村氏のような若武者が登場してくるのではないか。
若い政治家は見ていて気持ちがいい。記者会見の説明も論理的で爽やかだ。だが、年齢や政治経験を重ねるにつれて、爽やかさが薄れて、苦渋の説明が多くなるのが常である。それだけ重い決断が迫られ、多方面からの批判にも耐えなくてはならないからだ。
吉村氏が将来、国政を目指すかどうかは分からない。さまざまな試練を乗り越えて、地域や国の命運を託するに足る政治家かどうか、その真贋が明らかになっていく。期待を持って見守りたい。
■伊藤達美(いとう・たつみ) 政治評論家。1952年、秋田県生まれ。講談社などの取材記者を経て、独立。永田町取材三十数年。政界、政治家の表裏に精通する。著作に『新人類は検事が嫌い』『東條家の言い分』『検証「国対政治」の功罪』など多数。『東條家の言い分』は、その後の靖国神社公式参拝論争に一石を投じた。