赤字推計2千億円 休業できず支援もない地方交通の悲鳴

地方の人々の暮らしの足となるバスや路面電車などの公共交通が、さらなる苦境を迎えている。もともと高齢化や過疎化が進行し、不採算路線を抱えて赤字運営を余儀なくされている事業者が多い中、新型コロナウイルス感染拡大が追い打ちをかけ、事業者からは「もう経営が持たない」と悲痛な叫びが聞かれる。業界団体などは行政への訴えと支援要請を積極的に行っている。(織田淳嗣)
公共交通機関のジレンマ
「『走らせなさい』と言われて走らせたら、『支援できない』と言われる。いかにも分からない」
声の主は、岡山県内でバスや鉄道などを運航している両備グループ(岡山市)の小嶋光信代表。6月17日に県庁で行われた公共交通団体による支援要望の席で、公共交通機関への行政の支援の少なさに憤った。
新型コロナ禍で公共交通機関は公的支援の網から漏れた面がある。
例えば政府の持続可給付金。前年より売上高が半分以上減った月がある事業者に上限200万円が支給される。一方、公共交通機関は、国民生活・経済の安定確保に「不可欠な業務」とされ、休業要請の対象外となった。営業を継続した結果、給付金の支給条件を満たさなくなった事業者が続発したという。
岡山県では、売り上げの落ちた中小事業者に最大1千万円を支給する独自制度を設けた。だがこれは、持続可給付金をもらっていることが前提。小嶋氏は「公共交通機関は休業ができない中、支援はほとんどない状況だ」と仕組みに問題があると指摘した。
収入5~7割超減
この日県庁を訪れた団体はバス、タクシー、客船、地方鉄道の4分野。新型コロナ禍で3月から業績が段階的に悪化し、5月の運輸収入は乗り合いバス、鉄軌道、タクシーは昨年より5~6割減、客船は7割以上減と報告された。
岡山市を中心にタクシーを運行する八晃運輸(岡山市中区)が5月末、グループ3社の運転手の約半数に当たる約100人を解雇するなどの事例もあった。
一方、両備グループと学識経験者らでつくる一般財団法人、地域公共交通総合研究所(岡山市)の試算によると、全国の4分野の事業者は4月単月で総計346億円の赤字。9月まで同様の状況が続くと、赤字は総計2千億円以上となる。
岡山県では4月にもバス、タクシーの2団体が県庁を訪問し支援を陳情している。4団体がそろって訪問するのは異例で、メディアへの発表文には「歴史上初」「過去に例のないこと」などと強調する文言が並んだ。
高齢者の足、災害時に活躍
陳情では地方交通の公共性も改めて強調された。
タクシー事業者はバスが運行していない中山間地域で、乗り合いタクシーの運行を自治体から請け負う。保有車両が5台以下の零細事業者が多く、県タクシー協会は「業者が減れば、お年寄りの外出の機会がさらに減る」と訴えた。
県バス協会は、観光客の激減で窮地にある貸し切りバスについて「平成30年の西日本豪雨では、寸断された鉄道の代替交通として使われた」と存在価値をアピールした。
こうした中、公共交通機関側が意識するのは、地方自治体が自由に使うことができる国の地方創生臨時交付金。今年度は1次補正で1兆円が手当てされ、2次補正では新型コロナ対策として2兆円が増額された。
企業の損失補償や人件費に直接充てることはできないものの、各種の「支援金」名目での給付ができるとみて獲得をうかがう。今回の陳情に対応した菊池善信副知事も「臨時交付金をいかに有効に使うか考える。お知恵をお借りしたい」と応じており、期待は高まっている。
両備グループの小嶋氏は「地方交通はもともと赤字の事業者が多く、(新型コロナ禍が加わり)とても埋め合わせができる数字ではない。国を挙げ、どうやって地域の足を守っていくかを考えていかないと危ない」と訴えている。