幸せの国ブータン 詐欺スキャンダルの呼び水となった「30万人計画」【コロナ禍が生む「嫌日外国人」】

【コロナ禍が生む「嫌日外国人」】#18

安倍政権の成長戦略「留学生30万人計画」が招いた悲劇の一例を紹介してみよう。

2017~18年にかけ、人口約80万のブータンから700人以上もの若者が来日、日本語学校へ入学した。ブータン政府が進めた日本への留学制度「学び・稼ぐプログラム」による来日だった。

ブータンといえば「幸せの国」だが、若者の失業率の高さが社会問題となっている。そこで政府は失業対策で同プログラムを導入。「30万人計画」に沿ってアジア新興国から出稼ぎ目的の偽装留学生を大量に受け入れている日本に着目し、失業者を送り込もうとしたのだ。

政府と結託する現地の斡旋業者は、こんな言葉で若者たちを勧誘した。

「日本では留学中もアルバイトで年180万円は稼げる。日本語学校を卒業すれば、大学院への進学や就職も簡単だ。就職すれば300万円以上の年収も見込める」

留学生が180万円を稼ぐことも、進学や就職することも決して簡単ではない。だが、エリートの若手公務員の月収が3万円程度というブータンの若者には魅力的な話だった。彼らは業者の言葉を信じ、110万円ほどの留学費用を借金して日本へと渡っていく。

しかし、憧れの日本で待っている生活は悲惨だ。弁当工場などでの夜勤バイトに追われ、日本語の勉強ははかどらない。徹夜のバイト続きで、心身を病む留学生も相次いだ。「だまされた」と気づいても、借金を残してブータンに帰ることはできない。まさに地獄の日々である。

将来を悲観し、自ら命を絶ったブータン人青年もいた。病で長く昏睡状態に陥った後、今年に入って亡くなった女子留学生もいる。そして多くの留学生たちが進学や就職を果たせず、帰国していった。

のちにブータンでは、「学び・稼ぐプログラム」は政府が関与した詐欺事件として大スキャンダルとなった。留学斡旋業者の経営者は逮捕、政府高官も起訴された。

だが、留学生たちを都合よく利用した日本語学校、借金漬けの彼らにビザを発給した在ブータン日本大使館など日本側の関係者は、何の罪にも問われていない。

ちなみに現在、買収疑惑の渦中にいる河井克行前法相はブータンと縁が深い。「日本ブータン友好議員連盟」幹事長として現地を訪れたり、ブータン前首相が18年に来日した際に会談したりしている。この前首相は、プログラムを推進した張本人だ。

ブータンの日本への留学制度は短期間で中止に追い込まれたが、「30万人計画」は今も続いている。 =つづく

(出井康博/ジャーナリスト)