「もうダメだ」防災意識高かった旅館でも…女将ら濁流飲み込まれ

7日深夜に豪雨となった大分県由布市で、一家4人が車ごと川に流され、旅館経営の渡辺登志美(としみ)さん(81)が死亡、3人が行方不明となった。渡辺さんの旅館は川沿いにあり、日ごろから災害に備えて早めに行動。前日の6日夜も避難していたが、7日は自宅に戻って避難が遅れ、移動中に濁流に襲われた。防災意識が高かった一家の被災。親族は「悲しい思いをしないよう早めの行動を」と訴えた。(花輪理徳、石原颯)
「3人とも流された。俺も、もうダメだ」
7日午後11時45分ごろ、渡辺さんの娘婿、知己(ともみ)さん(54)から親族に悲痛な電話がかかってきた。同市湯布院町下湯平の県道で、車を走行中に増水した川に襲われ、木にしがみついていると説明した知己さん。その後、川に流されたとみられる。
渡辺さんは遺体で発見。知己さんと、渡辺さんの娘の由美さん(51)、孫の健太さん(28)の3人は行方不明のままだ。
渡辺さんが経営する「つるや隠宅(いんたく)」(同市湯布院町湯平)は山間の川沿いにあり、土砂災害警戒区域に指定。このため一家は、災害への備えを重ねてきた。
親族によると、家には防災バッグを常備。由美さんは子供に「うちは山と川に囲まれているから、避難は早めにしなくてはいけない」と言い聞かせていた。避難の際は、万が一に備え常に車2台で移動した。
福岡などに大雨特別警報が出た6日夜も、同市は「避難準備・高齢者等避難開始」の段階だったが、一家は市役所に避難した。
7日早朝には避難勧告が発令されたが、旅館に戻ると被害はなかった。前夜、一緒に避難した隣人が続けて避難するか聞くと、由美さんは「今日はしない」と答えたという。
気象庁の観測データでは湯布院周辺は、7日朝から雨は落ち着いていたが、深夜になって急激に雨脚が強まり、結果的に7日の雨量は前日の約2倍になった。
同じ地区に住む、佐藤朗(あきら)さん(60)は午後11時ごろ、岩が転がるような音と振動で眠りから覚めた。川の様子を見ると、激しい流れが岸をえぐり、斜面も複数カ所が崩れていた。
避難のため外に出ると、渡辺さん一家も車を出すところだった。佐藤さんは山沿いの道を上がっていったが、渡辺さん一家は前日過ごした市役所に向かう川沿いの道を進んだ。その途中で流されたとみられる。
死亡した登志美さんは、湯平温泉の名物女将(おかみ)。周囲から「登志姉」と愛され、酒席の盛り上げ役だった。健太さんは旅館の公式キャラクターを考案。ツイッターなどのSNSで「電脳女将」として話題となった。
知己さんと由美さんはおしどり夫婦で、地元サッカーチームの大ファン。いつも一緒に観戦に出掛けていたという。親族の男性(24)は「いつも当たり前にいると思っていた4人がいない旅館を見て、存在の大きさを知った」と沈痛な面持ちで言葉を絞り出しながら、こう訴えた。
「いつも早めに避難していた家族でも逃げ遅れてしまった。今まで被害に遭ってこなかった人たちも、自分のような悲しい思いをする人が出ないよう、改めて早めの行動が大事だと分かってほしい」