「のんたん」放置死の母、自身も虐待経験 持ち得なかった「親のモデル」

ベランダに無造作に置かれた大型のごみ箱。室内はひび割れたすりガラスの窓ごしでも分かるほど、ごみを入れたポリ袋が山積みになっている。6月上旬、東京都大田区蒲田のマンションのこの一室に1人で放置された梯稀華(かけはし・のあ)ちゃん(3)は激しい脱水症状を起こし、飢えに苦しみながら亡くなったとみられる。娘をかわいがっていたとされる母親の沙希容疑者(24)はなぜ、ネグレクト(育児放棄)に至ったのか。
●昨年3月に状況一変
沙希容疑者は平成26年に上京した。28年に稀華ちゃんを出産後、交際男性と結婚したが離婚。JR蒲田駅から徒歩5分ほどの1DKのマンションで29年7月から稀華ちゃんと暮らし始めた。当初は乳幼児健康診査を受診させ、30年8月には保育園に入園させた。近所のコンビニにもたびたび親子で訪れ、「のんたん」と呼んでかわいがる姿が目撃されていた。
状況が一変したのは昨年3月ごろ。保育園への通園が止まった。直前の2月には沙希容疑者のインスタグラムに《朝7時近くまで飲んでたでやばかったわ》との投稿も。居酒屋で働く沙希容疑者は、自宅に稀華ちゃんを1人にして出勤するようになり、友人との飲み会やパチンコ通いなどで未明に帰宅することもあったという。
稀華ちゃんは昨年12月に予定された3歳児健診を受診せず、コンビニにも姿を見せなくなった。「旦那が留守番してる」。沙希容疑者はオーナーの女性にこう虚偽の説明をしていた。稀華ちゃんは今年5月上旬以降、外出の形跡がない。
●「突然放置」
この時期、沙希容疑者はネグレクトの傾向を強めていったとみられる。捜査関係者によると、5月に4日間、鹿児島県を訪れ知人男性と会った。6月にも8日間、鹿児島へ旅行し男性に会い、13日に帰宅して死亡した稀華ちゃんを発見したとみられる。
児童虐待の心理に詳しい神奈川大心理相談センターの杉山崇所長は「ネグレクトは目の前での子供の反応がなく、身体的虐待に比べて心理的ハードルが低い」と話す。
西南学院大の安部計彦教授(社会福祉学)によると、ひとり親による子供の放置死事案では、ある程度の年齢まで熱心に養育したが突然放置する▽自宅を長期間不在にして異性を頼る-という共通点がある。安部氏は「子供を保育園に通わせず、ひとり親が働いていればネグレクトのリスクは高い」と指摘する。
●自身も虐待経験
一方、沙希容疑者自身も虐待を受け、親元を離れた時期があった。
関係者によると、小学2年の夏に当時住んでいた宮崎県内の自宅で母親から頭や顔を殴られ、体をビニールテープなどで縛られ放置された。十分に食事を与えられず、児童相談所が保護した際はあばら骨が浮き出るほどやせ細っていたという。
当時、児童養護施設に入所したという沙希容疑者。捜査関係者によると、自身の虐待経験と稀華ちゃんの放置を結びつけるような言動はしていないが、杉山氏は虐待経験によって「リアリティーのある親のモデルを持ち得なかったのではないか」とみている。
厚生労働省によると、29年度に虐待で死亡した子供52人(心中を除く)のうち22人が身体的虐待(42・3%)、20人がネグレクト(38・5%)だった。身体的虐待が近年減少傾向なのに対し、ネグレクトは3割前後で推移している。
身体的虐待と異なり、親の不在による放置は表面化しにくく、特に乳幼児では死亡のリスクが高くなる。安部氏は「健診の未受診などのタイミングで行政機関が情報を共有する必要がある。虐待を見逃さないシステムづくりが重要だ」と話している。