部下を育てられない“日本のダメ上司”が必ず陥るワナ――元GE「リーダー育成専門家」が斬る

編集部からのお知らせ:
本記事は、GEの経営幹部育成プログラムなどを歴任した著者による『世界基準の「部下の育て方」 「モチベーション」から「エンゲージメント」へ』(著・田口力、KADOKAWA)の中から一部抜粋し、転載したものです。リーダー育成の専門家が分析した「部下を育てられない上司の陥りがちなワナ」をお読みください。

部下育成を実践するに当たって、まず考えなくてはならないことは、部下について知る前に「自分を知る」ことです。

多くのマネジャーは、自分のことはさておいて、部下に対してどのような育成法でアプローチしようか――などと考えてしまいがちです。世界基準のマネジャー研修やリーダーシップ研修では、「自分を知る」ためのセッションが必須であるのに対し、日本企業の研修ではこの視点が欠けているのです。

部下に対する指導や育成は、大げさに聞こえるかもしれませんが、その部下の人生に影響を与える行為です。あるいは人生とまでは言わずとも、少なくともビジネス・キャリアに対しては大きな影響を与えます。

“自分”すら知らない上司が他人を育てられるか?
人の運動能力や言語能力、あるいは好奇心といった基本的な能力は、幼少期に原型が形成されます。同様に、ビジネス・パーソンとしての基本的な能力は、初期に巡り合った上司や先輩から大きな影響を受けるのです。

その後、中堅社員、役職者と組織の階段を上るにつれ、自己変容という大きなブレークスルーを起こす必要がありますが、そのきっかけをつくるのも上司の役割です。

このように部下に対して影響を及ぼす重要な立場にありながら、上司が“自分自身”について深く知ることがなかったとしたら、どのような結果が待ち受けているでしょうか。答えは火を見るより明らかです。

では、上司として自分の何を知る必要があるのでしょうか。

ここではまず、大まかに自分自身を捉えるために必要なことを述べておきたいと思います。それは、自分の「バイアス」について知るということです。バイアスとは、「偏り」という意味です。

私たちはさまざまな経験をするうちに、人や物事に対する見方・考え方に「バイアス」がかかってしまいます。例えば男女の違い、人種、職業などに対する偏見は、脳の中にある無意識のバイアスが影響して形成されます。こうしたことは最近「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見・思い込み)として注目されています。

部下に対する評価をするときも、どのような客観的指標を用いてもバイアスの影響を少なからず受けてしまいます。

管理職が陥る「バイアス」のメカニズム
このバイアスを生み出す原因は、私たちの脳が無意識のうちに、直観的な意思決定と意識的・論理的な意思決定を使い分けてしまうという作用が働くからです。一例を挙げてみましょう。

同じような営業の仕事をしている部下が2人いたとして、それぞれが挙げた営業成績が数値として示されたとします。客観的な数値を比較して、二人の部下の評価を決めようとしても、私たちの脳は必ずしも全ての情報を公平に扱ってくれるとは限らないのです。

例えばA君という部下は、企画会議などであなたの意見にいつも賛成し、後押しをするような発言をしているとします。一方B君は、時にあなたの意見と対立するような発言をしますが、それはとてもまともな正論だとします。

あなたの無意識下にある感情レベルでは、どちらかと言えばA君に対して好意を持ち、B君に対しては敵意とまでは言いませんが、あまり好ましくない印象を持ってしまいます。その結果、この印象の差がバイアスとなり、A君の評価を高くしてしまいがちです。

例えば客観的な数値として表れた2人の営業成績が同じであったとしても、「A君は頑張った」「B君はたまたま環境が良かった」などと、2人の評価に差をつけることを正当化する情報を、後付けで探し始めてしまいます。

部下育成を考えるときにも、このバイアスの問題は1つの大きな焦点になります。日頃、同じ職場でよく接している部下と、自分とは異なる事業所に勤務していてあまり接する機会のない部下がいる場合、善きにつけ悪しきにつけバイアスがかかります。また、同じ職場にいる部下たちについても、さまざまなバイアスによって公平に育成計画を作成することは難しくなります。

人はどうしてもバイアスによって人を評価してしまい、その育成においても濃淡が出てしまいます。自分が何かしらのバイアスにとらわれていないか、チェックしてみてください。

このバイアスの影響を極力少なくするためには、できる限り客観的に育成ニーズ(デベロップメント・ニーズ)などを評価できるような仕組みやフレームワークが必要になります。

部下に避けられていると気付かない「ダメ上司」
あなたの部下たちは、あなたが自席で仕事をしているときに、何のためらいもなくスッと近づいて話しかけてきますか。それともあなたの様子をうかがって、途中で引き返すことがありますか。もしそのようなことがあったとしても、あなたはそれに気が付いていないかもしれません。

なぜならあなたは仕事に集中するあまり、PCのモニターをにらみつけ、周囲の様子に注意を払っていないからです。眉間(みけん)にしわを寄せたその表情はこわばっていて、鬼のような形相かもしれません。

GEで新任マネジャー対象の研修を行っていたとき、私はいつもこの点について注意を促していました。

何か問題を抱えた部下があなたに相談しようとしても、あなたが近寄りがたい雰囲気を醸し出していたとしたら、どうなるでしょう。

まだ小さな火種のような問題を解決する機会を逸した部下は、自分で何とかしようと考えます。しかし、何ともならないのが世の常です。その問題は大火事の一歩手前になってしまい、どうにもならなくなってからあなたに相談に来るのです。

そして、あなたは部下を烈火のごとく叱りつけます。「何でもっと早く相談しなかったのだ」と。部下はひたすら謝りますが、心の中では「だってあんたの顔が怖くて相談に行けなかったんだよ」と叫んでいます。

小さな火種に対処するような問題解決の場こそ、仕事を通じた部下育成の絶好の機会です。にもかかわらず、「近寄りがたい雰囲気」がそのチャンスをつぶしてしまっているともいえます。

GEではかつて、社員のあるべき行動規範を示したGEバリューというものがあり、多くの企業がお手本としています。そのバリューの中の1つに、「包容力」(Inclusiveness)というものがあります。主なポイントは次の通りです。

・反対意見やアイデアを歓迎する。他の意見に耳を傾け、謙虚である

・他部門と協力しあって業務を行う。個人や文化の違いを尊重する

・社員のエンゲージメントとコミットメントを促進する

私がGEバリューを教えるときに強調していたことは、包容力のあるリーダーは「Approachable である」(近寄りやすい)ということです。部下はもちろんのこと他者にとって近寄りやすい人であるということは、包容力のあるリーダーとして基本中の基本です。

すぐできる! 「自分の包容力」チェック法
逆に部下や他者があなたに対して「注意深く」(Careful)近づいてきていたら、それはあなたの包容力に対する注意信号です。自信と謙虚さを兼ね備えていない人間が管理職になってしまうと、ありもしない威厳を示そうとして「偉そうな」態度を取ります。

あなたもそうした人の1人や2人、思い当たる人がいるはずです。そしてその人が醸し出している雰囲気が、職場の雰囲気に大きな影響を与えることも知っているはずです。

こうしたことを研修で教える者として私自身が実践していたことは、PCのモニターの横に鏡を置いて、自分の表情をチェックするということです。

始めのうちは鏡があることを意識してしまいますので、鏡を見るときに表情を和らげてしまいますが、そのうち鏡に対して意識が向かなくなります。そうすると素の表情を見ることができます。ぜひ試してみてください。

「管理職の失敗理由」あるあるトップ5
アメリカの人材開発に関する専門機関の調査による、「失敗する管理職の要因」のトップ5は次の通りです。

1.細かいことに過度に焦点を当てる

2.批判に対して否定的な反応をする

3.短絡的な結論を出す

4.部下に対して無駄な細部まで管理する

5.他人の意見に容易に左右される

この内容は、私もGEの新任マネジャー研修で教えていましたが、特に部下育成との関連で強調していたことは、4つ目の「部下に対して無駄な細部まで管理する」、いわゆるマイクロマネジメントについてです。

もちろん細部をおろそかにしないということは大切です。優れたリーダーは、望遠、広角、接写の3種類のレンズを持ち、木を見て森を見て草も見られるようにすべしと教えていました。

つまりマクロ環境、会社内の動向、職場(現場)の3つのレベルに注意を払う必要があるということです。

さて、失敗する管理職の要因4でのポイントは、「無駄な」細部というところです。

管理職としての意識転換ができていない人は、無意識のうちに部下と同じプレーヤーとして競おうとしてしまいます。またこうした人は、大局をつかむという管理職としての心構えもスキルもないので、どうしてもどうでもいい細部に目が行きがちになり、あら探しを始めるのです。こうした上司の下では、部下も細かいところばかりに注意が向けられ、本質を考え抜くという大切な思考習慣を身に付けることができません。

上司として失敗しないために、そして部下を育てるためにも、無駄な細部の管理をしないよう、常にセルフチェックをしてください。