「朝起きたら庭がなかった」 大雨で「擁壁」崩落が相次ぐ、各地で起こる危険性も

7月に大雨が続いた京都府亀岡市で、宅地の斜面を支える「擁壁」が相次いで崩れた。けが人はなかったが、庭が崩落したり、住宅まで土砂が迫ったりした。いずれも高度経済成長期以降に造成された場所で年月がたっており、被害回復は所有者が担わなくてはならない。専門家は同様の事態が豪雨や地震により各地で起こりうると指摘する。
7月9日朝、亀岡市篠町の住宅2軒の敷地を支える擁壁が高さ約3メートル、幅約10メートルにわたって崩れ、土が崖下の田んぼの横まで流出した。「朝5時ごろ起きて外を見たら庭がなかった」。住人の男性(72)は、物干しざおやプランターが庭とともに崩落した現場を見下ろし、ため息をついた。ブルーシートを敷いて応急措置をしているが、消防や警察、市からは避難するように言われている。
隣家の男性(73)は、4年前に引っ越してきた際、擁壁の石垣を覆っていた草が気になって処理したという。「見晴らしがいい分、崖が急で、大丈夫かなと思った」と振り返る。
この前日、亀岡市では大雨警報が約12時間半にわたって発令されていた。擁壁が崩落した場所は、川沿いの段丘を約50年前に造成した住宅団地の端にある。崩落部分は住民が替わっており、いつ工事されたかは定かではない。玉石積みの上にコンクリートブロックを増し積みしてあり、水抜きの穴も設置されておらず、既存不適格だったとみられる。
篠町で崩落があった同じ日の午後2時半ごろ、山間部に位置する東別院町の住宅地では、住宅裏のコンクリート擁壁の下部が崩れ、土砂が流れ出て家に押し寄せた。「いつかこうなると思っていた」「さらに崩れないだろうか」。住民らは口々に不安を訴えた。
一帯は市が都市計画区域指定をしておらず、造成許可は不要。約40年前に谷を埋めて造成されたが業者は倒産して図面もなく、工事に不備があったのかは不明だ。現在、擁壁の所有者は見立南区自治会となっている。
崩れた擁壁の上の斜面には、道を挟んでさらに擁壁があり、雨水の浸透を防ぐブルーシートが約30メートルにわたって張られている。10年前、造成地や擁壁が沈み始め、市は住民の訴えを受けてシートを毎年提供してきた。住民らは排水路も整備したが、2年前の大阪府北部地震で擁壁4カ所に亀裂が発生。今回、崩れる直前には上の擁壁や道が約1メートル沈下していたという。
修復には相当の金額が必要となる。住民は「自治会の予算規模では難しい。何とか安心して住める地域にしてほしい」と嘆く。
市自治防災課によると、危険な擁壁の実態調査はしていないという。都市計画課は「民地の管理責任は所有者にあるとしか言えない」としている。
■宅地所有者が「加害者」になる
宅地の擁壁が崩れて、被害が発生した場合、所有者の責任になる。国土交通省は、住民向けに「我(わ)が家の擁壁チェックシート(案)」を公表している。危険度が高い場合は最寄りの自治体に相談するよう記載している。 先進事例では、東京都北区が本年度「がけ・擁壁改修アドバイザー派遣事業」を独自に始めた。建築士の団体と連携し、危険性の診断や安全対策のアドバイスをしてもらう狙いで、既に申し込みがあるという。 人口約35万人の同区は2018年度から2カ年かけて、高さ2メートル以上で傾斜度30度以上のがけと擁壁の現地調査を行ったところ、約1800カ所を確認。危険度が高い箇所については、職員が訪問し、所有者に注意喚起をしている。擁壁の改修工事に必要な経費の一部助成制度も設けている。「擁壁は所有者の責任とはいえ、被害が出ないよう、安全対策の普及啓発と支援をセットで行っていく」(建築課)と説明する。 「宅地の防災学」などの著書がある京都大防災研究所の釜井俊孝教授は「危険な擁壁は全国各地にあり、これまでも地震や豪雨によりあちこちで崩壊している」と警鐘を鳴らす。「もし擁壁が崩れて被害が発生したら、宅地の所有者住民は加害者になる。『斜面を所有するリスク』を知ってほしい。住宅を購入したり、擁壁に不安があったりする場合は、第三者的立場の建築士など専門家に相談した方がいい」と助言する。