イノシシをモチーフにした島根県美郷(みさと)町の公式マスコットキャラクター「みさ坊」が、文字通り「猪突(ちょとつ)猛進」の活躍を見せている。誕生まもなくは「目つきが悪い」と不評だったが、公式マスコットとしての進退をかけた町ぐるみの活動が受け、昨年の「ゆるキャラグランプリ」で過去最高の24位に躍進した。奮闘ぶりは米紙ニューヨーク・タイムズで「不機嫌そうなイノシシ」として取り上げられた。
ゆるキャラブームに乗って誕生
中国地方最大の河川、「江の川」に沿って里山の美しい景色が広がる美郷町。田畑を荒らす野生のイノシシの肉を町の特産として売り出している。そんなイノシシの子「うり坊」をモチーフにしたのが「みさ坊」だ。ゆるキャラブームに乗って平成26年に誕生。名前は全国427件の応募から選ばれた。町のPRが任務だ。
性別は雄で「永遠の生後2カ月」。江の川をイメージしたリボンを巻いた山の形をした帽子をかぶり、町内に架かる橋をかたどったバッジをつけている。イノシシの別名「山くじら」から、くじらの尻尾が付いたズボンをはいている。
「号泣事件」
こう書くとなんともかわいらしい姿が想像されるが、誕生当初の人気はいま一つ。子供からは「目つきが悪い」「太っている」とからかわれ、大人からは「イノシシではなく豚だ」と揶揄(やゆ)された。
町内のイベントに呼ばれたり、ご当地キャラクターに年賀状を送る郵便局の企画に参加したりしていたが、あるイベントで、子供たちと触れ合おうと近づいた際に、子供を号泣させてしまう事件が発生。「ひどく落ち込み、次第に自信を無くしていった」(同町の担当者)という。
同様にゆるキャラグランプリの順位も振るわず、初参加の26年が524位で、その後も27年772位▽28年827位▽29年575位▽30年339位-と低迷した。
「ゆるキャラグランプリに出ているのを誰も知らなかった。投票するのは担当課の職員ぐらい」。町職員は振り返る。
「本気を見せてやる」
転機が訪れたのは亥年だった昨年1月。嘉戸隆町長が「12年に1度の好機」として、みさ坊を町公認アンバサダー(PR大使)に任命した。
就任式で嘉戸町長は「ぱっとしない。イノシシなのにウリがない。君のポテンシャルはこんなものではない」と叱咤(しった)激励。みさ坊は「オイラの本気をみせてやる」と応じ、結果が出なければ公式マスコットキャラクターを卒業すると宣言した。
それ以降、みさ坊は町内外のイベントに多く出演。カヌーに乗ったり、走ったりする姿をSNS(会員制交流サイト)で積極的に発信した。みさ坊のラインスタンプやポロシャツなどのグッズも制作。町を挙げてゆるキャラグランプリへの投票を呼びかけ、順位アップに本腰を入れた。
その結果、昨年のゆるキャラグランプリでは前年の339位から24位にジャンプアップした。
世界進出で明るい話題
みさ坊のサクセスストーリーは、2月17日付の米紙ニューヨーク・タイムズに掲載された。「クレイジーなマスコットであふれる日本。この不機嫌そうなイノシシは生き残ることができるのか」との見出しで、みさ坊が涙ぐましい努力でゆるキャラグランプリで順位を上げたことが紹介されたのだ。
記事には「不機嫌そうな顔は島根県に良く合っている。島根県は最もお金がなく、人口が少ない県の一つ。しかし、このタフな県は、そのステータスをリソースへと変えるための努力を惜しまない」と書かれた。町によると、同社は「崖っぷちなゆるキャラ」を探していて、みさ坊に白羽の矢が立ったという。
町の当時のみさ坊担当、中田彩泉さん(28)は「掲載後に町民から『世界進出したな』という声をもらった。明るいニュースになった」と喜ぶ。
今ではどこに行っても子供たちに取り囲まれる人気ぶり。評判の悪かった目つきも、今では町民から「この目がたまらない」と言われることもあるとか。
勢いに乗って今年のゆるキャラグランプリにもエントリー。公募で選ばれた「イノシシと人口競う美郷町」の川柳を掲載した出馬用ポスターを準備し、以前よりも自信にあふれた顔で写っているようにみえる。
4月にみさ坊担当になった同町の伊藤裕海さん(26)は「引き続きアンバサダーとして今後は町の好感度アップにつながる活動を頑張ってほしい」と話している。