香港での反体制的な言動を取り締まる「香港国家安全維持法」(国安法)の成立・施行から1か月半。民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏や、中国に批判的な論調で知られる「蘋果日報」(アップル・デーリー)創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏が国安法違反の容疑で逮捕されるなど、香港での言論・表現の自由は早くも危機を迎えている。
こういった状況を受け、香港市民の保護を目指す超党派の「対中政策に関する国会議員連盟」(JPAC)が2020年7月29日発足。人権制裁法の議員立法や、緊急避難が必要な香港人の受け入れ(救命ボート)政策を推進する。議連で中谷元・元防衛相ともに共同代表を務める山尾志桜里衆院議員に、その狙いを聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)
アジアの実力ある人権国家として国際社会で存在感発揮すべき
―― 山尾議員はこれまで「立憲的改憲論」といった憲法をめぐる議論で知られますが、19年末から香港をめぐる問題での活動が増えてきた印象です。そもそも、香港問題への取り組みを始めたきっかけは何ですか。デモ隊に対する警察の発砲がきっかけですか。
―― それが19年11月15日の法務委員会でした。森雅子法相がデモに対して警察が発砲したことに対する見解を問われ、 「一般論として申し上げますと、武器を持たない丸腰の市民に対して公権力が実弾を発砲するということは大変憂慮すべき事態」 と答弁しました。
自民党議員「自分もぜひ質問で取り上げたいが」…
―― このやり取りに「複数の若手の自民党議員からも共産党の議員からも共感の声」(7月29日掲載の安田峰俊氏によるインタビュー(JBpress))というのは意外です。
国安法に反対する議員署名、アジアでは日本が一番多かった
―― 5月末には、国安法に反対する署名活動が行われ、与野党の多くの国会議員が署名しました。
―― 7月に発足した「対中政策に関する国会議員連盟」(JPAC)の規約では、IPACと「連帯」することをうたっています。どういった活動を想定していますか。
―― 日本が一番早かったというのは珍しいですね。JPACとしては、具体的にはどんな活動を考えていますか。
今ある制度を緊急避難的に、とにかく柔軟に運用を
―― 各論についてうかがいます。ライフボート政策についてですが、19年11月15日の衆院法務委員会で、高嶋智光・出入国在留管理庁次長が 「今後の、庇護を必要とする皆様に対しては、引き続き、難民認定制度を適切に運用をするなどして、真に庇護を必要とする方を確実に保護できるように検討してまいりたい」 と答弁しています。香港人が日本の総領事館に駆け込んだとして、保護されるのかよく分かりませんね。
―― 法改正はせずに、運用面の改善でカバーできそうですか。
―― 先ほどの(2)の問題も重要ですね。香港に帰ると身柄拘束のリスクがある在日香港人もいます。
―― ただ、デモに参加した人の中には、店舗や地下鉄の駅を壊したりして暴徒化した人もいます。そういった人まで受け入れてしまうと問題が出ます。
香港を支援するイベントの参加者名簿が提供される可能性
―― 次は、捜査共助についてです。日本と中国、香港の間には、身柄を引き渡す条約や協定はありませんが、情報共有する取り決めがあります。
―― 国安法は、香港の外で行った行為や、香港人以外であっても処罰の対象になります。例えば、JPACの集会で在日香港人が背景に掲げていた「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、時代の革命だ)」というスローガンに、香港政府は国安法違反になり得るとの見解を示しています。そう考えると、捜査共助でパスポートの番号が日本政府から香港に提供されるとすれば、集会に参加した香港人はもちろん、スローガンの写真つきで集会の署名記事を出稿した自分のような日本人記者も、香港に行くと身柄を拘束されるリスクがありそうです。
―― JPACの集会に出席した在日香港人は、身元が特定されないようにマスクをしたり、パーカーのフードを深くかぶったりしていました。彼らを支援する日本人も、同様に顔を隠さないといけなくなるかもしれません。それはやはり萎縮ですよね。
―― 香港は観光地としても魅力的な場所でしたが、なかなか厳しいですよね。
マグニツキー法で国会が外交に関与できるようになる
―― 3番目の「マグニツキー法」は、どのような法律ですか。
―― 成立すると、具体的に何ができるようになりますか。人権侵害に関与した人が日本に入国できなくなったり、日本に持つ資産が凍結されたりするのですか。
―― JPACの議員立法で想定しているのは、ピンポイントに中国を対象にしたものですか。それとも、グローバルを対象にした法案ですか。
中国製品の代わりになる技術開発は「絶対やった方が良い」
―― 議連は「対中政策に関する」と掲げていますが、最近問題視されている動画共有アプリの「TikTok(ティックトック)」や、第5世代(5G)の通信ネットワークでの中国製設備の問題です。JPACではどのように取り組みますか。
―― 今は香港にスポットライトが当たっていますが、8月初旬には、ウイグル人の男性モデルが収容施設内部から撮影したとされる動画を英BBCが放送し、衝撃が広がりました。中国は「再教育施設」だと主張していますが、西側諸国の多くは、事実上の強制収容所だと受け止めています。JPACとしては、ウイグル問題にどのように取り組みますか。
―― IPACの知見を生かしながら、JPACの存在感を高めていく、ということですね。署名も日本では多く集まったということもあるので、そういった面でも日本が貢献できることはいろいろありそうですね。
リベラル側の国会議員に声をあげてほしい
―― 検察幹部の定年延長問題では、芸能人含めて「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグを使ってツイートするなど、抗議活動が広がりを見せました。今回の香港の問題でも関心は高まりつつありますが、まだ定年延長問題ほどではないようです。芸能人の情報発信も、ほとんどありません。日本人にとって香港は遠いのでしょうか。
―― そういえば、JPACの設立総会の呼びかけ人に、共産党や公明党の人はいませんでした(編注:呼びかけ人には、自民党、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会、希望の党の国会議員が名を連ねた)。
―― 自民党にもリベラルの方は多くいらっしゃるはずですが、自民党から呼びかけ人に名を連ねたのは、中谷元衆院議員、山田宏参院議員、有村治子参院議員、長島昭久衆院議員、(会派所属の)藤末健三参院議員の5人でした。やはり党内事情で厳しいのでしょうか。
―― 設立総会では、3つの活動内容が示されました、もしスケジュール感のようなものをお持ちであれば、お聞かせください。政権側は憲法53条に基づく早期国会開会要求を拒否したので、国会が開くのは9月下旬になる、との見方もあります。具体的に議論が進むのは、それ以降でしょうか。
国民民主入党で「ポジショントークせずに具体的な議論を」
―― ところで、話はまったく変わりますが、先日、国民民主党に入党したばかりです。党内でどういう形で活躍したいですか。立憲ではできず、国民でできそうなことには、何がありますか。
―― やはり前の党(立憲民主党)だと議論すら無理だったが、国民では議論自体はいい、と。
―― 確かに、攻防が長い間続いたという印象はありませんね。
―― 入党が認められてまだ日が浅いですが、両党の空気感やカルチャーの違いは感じていますか。
候補者調整で「予備選」が大事な理由
―― そんな中で膠着している合流協議なのですが、どのように見ていますか(編注:その後、国民の玉木雄一郎代表は8月11日、立憲から提示された合流条件に同意する一方で、自らは合流新党に参加せず、分党する考えを表明した)。
―― そんな中でも解散総選挙の話がちらつきます。合流するにしてもしないにしても、小選挙区では野党は候補者調整をしないといけません。7月22日付けの毎日新聞「政治プレミア」のインタビューでは、予備選の必要性を唱えていました。これは重要な指摘だと思いました。
―― 例えばある小選挙区で、立憲、国民、共産でガチンコで予備選をして、立憲の人が勝ったとします。プロセスを透明にする分、「自分は共産党支持者だけど、『本番』の選挙では立憲の人を応援するよ」と、気持ちよく票を投じられるようになるかもしれません。
―― 与野党ともに党首選はそれなりに報道されるので、予備選をやれば、野党への注目も増すかもしれません。
―― そうですよね、確かに。そういう仕組みができたら面白いですが、制度設計は大変そうです。それに、永田町には魑魅魍魎がたくさんいるので、どうしたら…。
山尾志桜里さん プロフィール やまお・しおり 衆院議員、1974年生まれ。東大法学部卒。検事を経て、2009年に衆院愛知7区から出馬し、初当選。民進党政調会長などを歴任。20年3月に立憲民主党を離党し、7月に国民民主党に入党。通算で現在3期目。