新型コロナウイルスが猛威を振るう中で迎えた今年の夏は、帰省を諦めた人が多い。感染者数が全国最少の岩手県では、地域の目を気にして帰省を自粛する人も多かったようだ。
東京在住の男性(37)はこの夏、紫波町にある実家への帰省を断念した。6月頃は帰省を考えていたが、7月30日に隣の矢巾町で感染が確認されると、風向きが変わった。
男性によると、実家の近所で新型コロナへの警戒感が一気に強まったという。母は回覧板を渡しに行く度に「本当に息子さんが帰ってくるの?」と聞かれるようになった。
8月上旬、男性が勤める都内の職場で同僚の感染が判明した。男性は濃厚接触者には当たらなかったが、母は電話口で「近所の人がものすごく怖がっている」と嘆いた。「今帰省したら、両親が一生、近所から嫌みを言われ続けるのでは……」。そう案じ、帰省を諦めた。
「2人の孫に食べさせよう」と両親が庭で春から育てていたスイカやミニトマトは手つかずのまま。母とビデオ通話をした際、長女(6)が「ほしいものは何もないけど、岩手に行きたい」と話した時、男性は涙があふれそうになった。「年末年始も来年の夏も、ワクチンができるまでずっとこの状態が続くだろう。両親は孫と触れ合えずに老いていく。つらい」とこぼした。
里帰りをした人も、「空気」の厳しさを実感したようだ。簡易投稿サイト「ツイッター」には、本県に帰省したとみられる人から「親戚や近所の『コロナアレルギー』がすごい」「私の触った供え物を『触りたくないから持って回らないように』と言われた」といった発信があった。
県内では、盛岡市の谷藤裕明市長が5日の記者会見で、県をまたぐお盆の帰省を可能な限り自粛するよう呼びかけ、移動する場合は万全の態勢で感染対策を徹底するよう求めた。一方で国や県は、お盆の帰省で自粛要請などは行わなかった。達増知事は6日の記者会見で、県内への帰省について「家族や地元の人と会わなければならないことはあると思う。感染対策をきちんとして、岩手に来てほしい」と話した。