親に隠れてヘビの漬物を食べた女児が… 福島県金山町の大蛇「沼御前」伝説

コロナ禍で重い空気が日本に立ちこめる中、疫病退散のご利益があるかもと、一躍脚光を浴びたのは熊本のご当地妖怪「アマビエ」だった。東北の地にも数々の民間信仰が根付いている。新潟県境に近い福島県金山町の沼沢湖は公園やハイキングコースが整備された人気スポットだ。毎年8月の「沼沢湖水まつり」(今年は中止)は1万人以上が集まる一大行事で、湖に伝わる大蛇「沼御前」の伝説がもとになっているという。気になって取材した。【三浦研吾】
さかのぼること鎌倉時代。湖の主として恐れられた雌の大蛇は髪の長さが約6メートルもある若い美女に化け、住民に危害を加えたという。当時の会津領主が家来と大蛇を退治。頭を湖畔に埋め、霊をまつるために高台に建立したとされるのが、湖畔に残る沼御前神社だ。
7月中旬、神社に行ってみた。草木に覆われた石段を上り始めた時、足元で細長い緑色の物体が動いた。ヘビだ。体長60センチはあるだろうか。来る者を拒むのか、出迎えてくれたのか。道に迷いながら10分ほどで神社に到着。茂る木々の間から湖を望むことができた。
「沼沢湖水まつり」は新型コロナウイルスの影響で今年は中止となったが、観光振興のために1973年に始まった。1日目に大蛇が暴れ回り、2日目は武者にふんした町民が船に乗ってヘビを退治し、首を神社に埋葬する様子を再現する。出店が並び、いかだレースや花火大会もある。
金山町観光係の佐々木貴之さん(49)によると、町の子どもはみな大蛇伝説を聞いて育つという。濃霧で作物ができないことをヘビの仕業として退治した話や、親に隠れてヘビの漬物を食べた女児がヘビになってしまい、山に帰ったという言い伝えもある。豊作祈願にしつけ、さらには観光振興。大蛇は暮らしの中で大切な役割を果たしてきたようだ。
一方で、町の昔話を語り継いでいる「昔語りの会」の大竹モト子代表(70)は子どもの頃、大蛇伝説のことは知らなかったという。「今は湖水まつりがあることで、若い世代に伝説が引き継がれていくのではないか」と教えてくれた。県立博物館の学芸員、山口拡さん(39)は「家族構成が変化し、今は口伝えが難しい。祭りとして地域文化を残すのは現代社会にあった方法だ」と分析している。
若い美女に化けた沼御前とはどんな姿だったのだろう。絵を探したが、見つからなかった。妖怪に関する本を自費出版している会津美里町の小学6年生、関本創(あらた)さん(12)は「沼御前は名前や姿形が語り継がれ、絵は後から付けられたもの」と説明してくれた。記者が神社を訪れたことを話すと、こんな助言もしてくれた。「動物がまつられている神社では絶対にその動物を踏んだり、殺したりしてはいけません」。危なく踏むところだった。