年間110万人が訪れる観光地「鳥取砂丘」(鳥取市)。そのほぼ中央部の通称「長者ケ庭」で8月17日夕、観光客の男性が倒れて亡くなっているのが見つかった。鳥取県警の調べで、死因は熱中症と推定された。長い砂丘観光の歴史の中で、だれも「記憶にない」というショッキングな事態。“灼(しゃく)熱(ねつ)”の砂丘で何があったのか。
「観光客の命を最優先に」
「ここ数年の暑さは異常。このままだと死者が出ると警告していた」
「景観保全も大事だが、観光客の命を守ることを最優先に考えないと」
熱中症死の発生から10日が経過した8月27日、鳥取市内で開かれた「鳥取砂丘未来会議」。砂丘の将来を考えるために集まった産学官の有識者からは、熱中症による死亡事案に対する意見が噴出。衝撃の大きさをうかがわせた。
鳥取県警鳥取署や県によると、事案の概要はこうだ。8月17日午後6時ごろ、鳥取砂丘で男性が倒れているのを観光客が発見し、消防に通報。同署員と消防隊員が駆け付けたが、男性は死亡していた。調べでは、死亡した男性は40代の観光客。この日の同市の最高気温は35・2度で、男性は帽子はかぶっていたが、水筒やペットボトルは見つかっておらず、死亡推定時刻は同日午後とみられるという。
鳥取砂丘は東西16キロ、南北2・4キロと広大だが、観光地とされている場所は天然記念物の指定エリアとほぼ重なる。その面積は約146ヘクタールで、東京ドーム31個分の広さだ。男性が亡くなっていた長者ケ庭はそのエリアのほぼ中心にある。
砂丘入り口「40度」
8月下旬、現場を歩いた。午前11時過ぎに砂丘入り口に立ち、設置されている温度計を見ると、気温は「40度」。市街地の気温より3~5度は高い。立っているだけで汗が噴き出す。
現場に向けて歩き出したが靴に入りこむ砂が熱い。砂丘の巡視などを行っている鳥取砂丘レンジャー詰め所で聞いた話を思い出した。
「15日に砂丘の砂の表面温度を測ったら61度あった」
15日は事案発生の2日前。最高気温は35・8度、終日晴れという、ほぼ同じ気象条件だった。
砂丘は起伏が大きい。現場の長者ケ庭は大きな起伏の底に近い場所にある。細かい起伏を上ったり下ったりしながら、出発から約10分で現場に到着した。日差しをさえぎるものは何もない。
帰りは、観光客が歩くとすればこの道だろうと推測した、「馬の背」と呼ばれる尾根道を通ることにした。海岸に沿って東西に続く高台。海の水面からは50メートルほどの高さで、長者ケ庭からはだらだらの上り。風が止まるとたまらない暑さだ。頻繁にのどが渇き、水筒に何度も口をつけた。東に進むと、馬の背頂上に向けて大きな起伏を上ってくる中年の男女が見えた。何度も立ち止まり、ハンカチで汗をふいている。
馬の背近くでパラグライダー教室を開講する鳥取砂丘アクティビティ協会会長の片岡義夫さん(57)は「馬の背を上がり、海側に駆け下り、また上がろうとして動けなくなった若者を助けたことが何度もある」という。若者でさえそうなのだから、体力が落ちた中年に夏の砂丘の起伏はきつい。
ゴールの砂丘入り口までは、馬の背のふもとから緩やかな上り坂で約700メートル。砂に足をとられて歩きづらく、途中3度ほど休み、水分補給した。ようやく入り口にたどりついたときには、長者ケ庭を出発してから30分がたっていた。
「気温37度で入場制限」提案も
未来会議に出席した片岡さんは「砂丘の厳しい暑さを観光客は知らない」と述べ、別の出席者も「砂丘の入り口から海側を見ると、実際より近く見える。楽にいけるだろうと錯覚する」と砂丘の危険性を指摘した。また、地元観光協会の幹部は「新型コロナウイルスの感染拡大により観光客が少なく(倒れた男性の)発見が遅れた可能性もある」と推測した。
今年8月の砂丘内での熱中症救護件数は27件で、コロナ禍による観光客激減にもかかわらず、前年より10件も増えた。鳥取砂丘レンジャーの竹ノ内司修さんは増加要因として、長梅雨が明け8月に入って一気に猛暑となり、砂丘を訪れる人たちの体の調整が気候に追い付けていない可能性もあるとした。
事案を受けて鳥取県などは、熱中症の注意喚起のチラシを砂丘駐車場で配ったり、入り口に注意喚起の看板を設置したりするなどの対応に追われた。屋外スピーカーで1日5~7回の注意喚起放送も始め、砂丘レンジャーの巡視も強化した。
未来会議では「思い切って気温37度以上の日は砂丘に入ることを制限する」「具合の悪そうな観光客をいち早く発見できるような基礎知識を観光関係業者が持つところから始める」などの意見も出た。当面は観光客への呼びかけを強めることから始めているが、二度と熱中症死を招かないためには、「灼熱の砂丘」への抜本的な対策が必要だ。