沖縄でIT識者が激論! どうする、どうなる、IT後進国ニッポン

メルカリのCIO(最高情報責任者)を務める長谷川秀樹氏が、志高きゲームチェンジャーと酒を酌み交わしながら語り合う本対談。ついに東京を飛び出し、沖縄にやってまいりました。ゲストは、日清食品ホールディングスCIOの喜多羅滋夫氏、フジテックCIOの友岡賢二氏、パラレルマーケターの小島英揮氏、クラウドネイティブCEOの齊藤愼仁氏、沖縄在住のサイオンコミュニケーションズ米須渉氏です。

「個の時代」のキャリア戦略を聞いた前編に続き、後編では、「地方で働くということ」に端を発し、沖縄と米軍基地のこと、そして日本が抱える「イノベーションのジレンマ」について語ります。

長谷川: 僕の地元は三重なんだけど、三重は三重大学を出て、中部電力か百五銀行に行ったらエリートなんですよ。東京に出ていこうとする人が少ない。東京が全てってわけじゃないけど、「東京行って、一旗、揚げたろか」ってのを実行に移す人が少ないというか……

小島: 長谷川さんの言う“東京”は、外の世界のアイコンでしょ? つまり、「外の世界に出よう」とする人が少ない。

齊藤: 僕は、長野育ちなんだけど、ずっとドラゴンクエスト(ゲーム)をやっていて、東京の存在を気にもしていなかったし、渋谷も知らなかったよ。長野は一般的に教育県といわれていて、地元で良い教育を受けて、セイコーに行くというのが成功モデルかな。

喜多羅: 地方の課題は、東京に比べて仕事の絶対数が少ないことじゃないかな。東京の強さは、小さいことでも、よく分からない肩書でも仕事になるところ。新しい仕事がどんどん生まれ、会社になって、それなりの市場になったりして多様性があるよね。

地方は、仕事として確立されていないものは切り捨てられがちで、なかなか仕事のカテゴリーに入ってこない。一度、東京へ出てきた人が地方へ戻り、「そういうビジネスがある」というのを地方でも実現できるようになれば、少なくともあんな通勤地獄で苦労せず、良いキャリアが積めるんじゃないかな。

齊藤: でも、いくら地方自治体が呼びかけたとしても、個人が東京を出て地方に戻るメリットってあるんですかね?

小島: 東京でもらっているのと同じ金額を、地方で雇われてもらうのは難しいよね。

齊藤: それもそうだし、例えばの話、Uターン、Iターンを期待して沖縄が給与水準を2倍にしたらみんなどうするの? それこそ、沖縄から出て行っちゃうんじゃないかって。

喜多羅: 高い給与をもらえる人が、働く場所として沖縄を選ぶのかってこと?

齊藤: そう。一瞬、沖縄で働いたとしても、「俺、こんなにできるんだったら、もっと行けるんじゃね」と考えて、沖縄をどんどん出て行くんじゃないかなって。

「沖縄は米軍基地があるから潤う」は幻想?
友岡: 沖縄って台湾も近いけど、米軍との関係で日常生活に英語が結構入ってきていて、いきなり海外に出てもおかしくないイメージだった。

齊藤: 僕もそのイメージだったよ。

喜多羅: いわゆる“内地”に住んでいると、沖縄のイメージって本土復帰した1972年前後で止まっているかもしれない。僕らが普段イメージしている沖縄と、住んでいる人にとっての沖縄、米国という国や基地との距離感――ホントのところ、どうなんだろう?

米須: 米国は海の向こう側、基地はフェンスのすぐ隣。僕の中ではそういう距離感だね。

喜多羅: 米軍基地があることのリアリティーって、沖縄の人の仕事や生活にどう影響しているの?

米須: 私は、米軍基地や関連施設が、狭い沖縄の土地を取りすぎていると思っています。米軍基地の多くは好立地。そこで100人雇うより、返還してもらって商業施設を作った方が税収は上がるはず。

喜多羅: なるほど。いかに集中して経済を効率よく回していくかと考えたときに、米軍基地が黒塗りでブロックしているところのインパクトは大きいのかもしれないね。

※沖縄には日本全体の米専用施設の約70%が集中し、沖縄本島の約15%(東京23区のうち13区を覆う面積)を占めています(沖縄県の資料より)。

米須: 米軍基地があることで潤っている人がいるのは事実です。でも、沖縄県が出しているデータでは、観光業や情報通信業が伸びていて、経済における米軍基地への依存率はかなり下がっているんですよ。米軍基地があることの経済的なメリットって、昔ほどではないわけです。

小島: 「ビジネスに使いたいから返還してほしい」という意図は伝わってているの? 返還された後、どうしたいという話を聞いたことがないんだけど。

米須: 例えば、2019年の夏にオープンした浦添市の「パルコシティ」は、返還跡地にできた商業施設です。北谷町の「ハンビータウン」や北中城村(きたなかぐすくそん)の「

イオンモール沖縄ライカム」もそう。返還された土地に商業施設ができて、経済効果と活気を生んでいるんですよ。

小島: なるほど。それはもっと報道された方が良い気がするね。返還の意義って、「沖縄の気持ち」や「負担軽減」という文脈で語られることが多いから、経済合理性があるとは思っていなかったよ。

喜多羅: 今、話していて感じるのは、僕たちが普段触れているメディアが取材して報じていることって、やっぱりすごく限られているんだなということ。

友岡: 僕ら、今まで「沖縄は米軍基地があるほうが、もうかる」と思い込んでいたからね。

IT後進国ニッポンの未来
小島: 始めにした「地方から東京へ出ていこうとする人が少ない」って話は、「日本から世界へ出ていこうとする人が少ない」のと構図は一緒だよね。外の世界を知らなければ、ギャップを正しく認識することはできません。例えば、多くの日本人は、いまだに日本はアメリカに続く第2位の経済大国だというつもりでいる。でも実際は、既にGDPも中国に抜かれてダブルスコアになっているわけ。

今の日本の問題は、「自分たちはビハインドしていない」と思っているところ。日本のものづくりは世界一だとか言うんですけど、いや、実態と合っていないでしょうと。それを認識しない限りリカバリーできないし、これから成長していく領域に一線級の人材を充てられないと思います。

米須: 確かに、成長領域に人を充てられていないというのは感じますね。

小島: それが、孫さんの「日本はAI後進国」という発言につながるわけですよね。「今の時代、いくら(ハードウェアとしての)自動車を作れても仕方がない」ということを彼は言っているんです。

長谷川: 製造業では世界を席巻した日本が、ソフトウェアで覇権を握れないのはなぜだと思う?

中国と同様、昔の日本はパクるのうまかったじゃないですか。例えば、海外からERP(基幹業務を統合し、総合的な経営を行うためのシステム)が出てきたときに、もっと良いERPを作ればよかったんですよね。参考にして、もっといいものを作れたはず。でも、なぜかそれができなかった。

喜多羅: 私見ですが、ソフトウェアはハードウェアのおまけだという価値観から長く抜け出せなかったからじゃないでしょうかね。実際、ハードウェアの改良だけで変わっていく世界ってあるじゃないですか。それがあまりにも重視されてきたので、その上に載っているソフトウェアの価値が認められなかった。

小島: 典型的な「イノベーションのジレンマ」ですよね。「ものづくりこそが日本」だと思ってしまっていた。

長谷川: 日本企業のIT活用の傾向として、収益や生産性を上げるのではなく、現場のユーザビリティばかり重視してしまうというのもあるよね。カスタマイズにカスタマイズを重ねて社内システムを使いやすくして、現場の満足度は上がっているけれど、事業や経営に対してのプロフィットは出せていない、とか……。これが米国企業だと、社内システムなんて「画面使いにくくてもお前やっときや」となる。そこが違う。

齊藤: でも、日本の社内システムで使いやすいものに会ったことないですけど。

喜多羅: 相対的には外資系企業の社内システムのほうが使いにくいものが多いと思うよ。というか、彼らにとって、社内システムが使いやすいかどうかなんて議論すべきポイントではないということだと思う。

齊藤: 日本は、ITリテラシーがない人でも使えるシステムにしろって言うよね。使いやすくするのは大切だけど、「ITが使えなくても良いんだ」という風潮は老害を量産するし、米国、中国、IT新興国との格差はますます広がりますよ。

長谷川: 日本のITの現状ってね、僕らみたいなおっさん軍団の責任ですよ。

米須: 沖縄では、台湾に留学する学生が増えているんです。どうせ外へ出るなら、東京も台湾もコストは同じ。であれば、中国語も英語も使う台湾を選ぼうと。

小島: それは良いね。まったく違う“ものさし”を得られますよね。

喜多羅: 周りにそういう人が増えると、心理的なハードルも下がるよね。「アイツも台湾に行ってるなら、自分だって」と思えることのインパクトってすごいですよ。身を置く環境をどう選ぶかって大事です。

米須: 僕の仕事は、沖縄の県立学校をまとめて面倒見る情シスなんだけど、ITで先生の負担を軽くして、生徒たちと向き合う時間を作ってあげたいと思ってる。僕が構築したシステムを使って、ITに興味を持ってくれる生徒が一人でもいたら僕の勝利。次の世代を育てるのが、僕らおっさんの仕事さー。