「責任を痛感」家族意向で
高校生2人を乗用車ではねて死傷させたとして自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)に問われ、1審・前橋地裁判決で無罪とされた被告が、6日から東京高裁で始まる控訴審では一転、有罪を主張する方針だ。「被害者に申し訳ない」と訴える家族の意向に被告が同意し、罪を認めるという。異例の展開に、高裁の判断が注目される。
前橋市の無職川端清勝被告(88)は2018年1月9日、同市内の県道で、自転車で登校中の女子高校生2人を乗用車ではね、1年生の太田さくらさん(当時16歳)を死亡させ、もう1人にも重傷を負わせた。
今年3月の地裁判決は、被告が持病の薬の副作用で意識障害を起こしていた可能性があり、事故は予見できず、運転を控える義務はなかったとして、被告側の主張を認めて無罪(求刑・禁錮4年6月)とした。検察は控訴した。
以前にも物損事故を起こした被告に、運転をやめるよう再三説得していたという被告の家族は取材に対し、「家族として責任を痛感し、無罪を受け止められない」と述べた。判決や被告を批判するインターネット上の中傷も「つらかった」と語った。
控訴審で選ばれた新たな弁護人は、家族の話や裁判記録を踏まえ、被告が目まいの症状で病院を受診していたことなどから事故を予見できたとして、検察側の主張を全面的に認める方針だ。現在は福祉施設で暮らす被告も、「運転を控えるべきだった」と納得しているという。
被告の家族が有罪を求めることについて、交通犯罪に詳しい東京都立大の星周一郎教授(刑法)は、「最近みられる高齢ドライバーによる事故の極端な一例で、被告家族の苦悩が伝わる。ただ、被告家族の処罰感情が裁判に影響することはない」と語る。「関東交通犯罪遺族の会」顧問の高橋正人弁護士は、被告家族の主張に理解を示しながら、「公判に直接的な影響はなく、裁判官は証拠から予見可能性を客観的に判断することになる」と指摘する。
太田さんの両親は代理人を通して談話を公表し、「私たちが望むのは、被告が責任に正面から向き合い、罪を償ってくれることです」とした。その上で、「『運転すべきでない人が運転した』ことが、問題であることを明らかにする判断をしていただきたい」と求めた。