「大阪の低迷を止めろ」。れいわ新選組・山本太郎代表が「大阪都構想」住民投票に対してゲリラ街宣

◆山本太郎代表が「大阪都構想」住民投票でゲリラ街宣

10月12日告示・11月1日投開票の「大阪都構想」住民投票に対して、れいわ新選組の山本太郎代表が、報道関係者への予告なしのゲリラ街宣で反対を訴えている。

立憲民主党の枝野幸男代表が天王寺駅で都構想に異論を唱えた9月21日には、山本代表は梅田駅と難波駅で昼と夜にマイクを握り、24日には阪急三国駅、そして25日にも京橋駅で街宣。「日本維新の会」との対決姿勢を鮮明にしているのだ。

“大阪街宣”で山本代表と掛け合いをしているのが、同党の大阪5区出馬予定候補で、元大阪府職員の大石晃子氏。都構想のキャッチフレーズである「大阪の成長を止めるな」について、山本代表が「本当に成長していたのか」と問いかけると、大石氏はモニターに映し出された「維新府政で成長していない大阪」と銘打ったグラフを説明したうえでこう結論づけた。

「大阪は全国平均と比べても他都市と比べても、成長していないし、(消費は)低迷しています」

そして山本代表がこうたたみかけた。

「データで見ると、こうなのです。雰囲気だと『(維新は)頼れるな』という感じですが、データは違う」

◆「大阪の成長を止めるな」ではなく「大阪の低迷を止めろ」

「大阪の成長を止めるな」という謳い文句は、大阪都構想が争点の「大阪ダブル選挙」(2019年4月)でも使われた。「大阪の成長を続けるには、府と市のトップがともに維新で連携している状態を固定化する、都構想の実現が不可欠」とメリットを強調していた。

その前提が崩れ去ると、都構想への見方は大きく変わるに違いない。実際は「大阪の低迷を止めろ」であるなら、都構想賛成派が減るのは確実だからだ。続いて山本代表は、大阪の消費低迷について、「内需軽視の安易な外需依存が諸悪の根源」と指摘していった。

「このGDPの中で、経済を動かすいちばん大きなエンジンは、個人消費です。GDPの6割。経済をよくしようとしたと思ったら、この個人消費を喚起するしかないでしょう。しかしこの国は20年以上、いちばん大きなエンジンをほったらかしにしたのです。

頼みの綱は何かというと、結局、インバウンド(訪日外国人旅行者)。『いい加減にしろ』ですよ。それによって、不安定な経済状況を生み出すことになったのは、コロナでもはっきりしました。外国人が入って来なくなった。外国の観光客に頼っていた人、観光地はどうなったのか。

国の明らかな失策だったということです。このインバウンド頼みというのは、大阪もそうだった」

◆インバウンド需要への依存政策が莫大な税収減をもたらした

大石氏は、次のように解説していった。

「『少子化は続く』と、松井(一郎・大阪)市長は言うのですよ。『少子化は続いても仕方がないから、インバウンド、IR(統合型リゾート施設)、カジノに外国人のお客さんに来てもらって、その成長の果実で社会保障をまかなうのだ』と淀川区内で絶叫していました。

私は、それを聞いて許せないと思いました。

維新がさんざん若い人の非正規雇用をたくさん作って、結婚する気にもなれない、子供も産めない状況を作っておいて、『少子化は続く』ありきで(海外の)お金持ちに来てもらうというのは、『ふざけるな』と公務員(府職員)の時から思っていました」

さらに大石氏は、維新の外需(インバウンド)依存政策が莫大な税収減をもたらしたことも紹介した。

「インバウンド需要は危ういということです。これは大阪市が8月に出しているデータで、インバウンド需要は99.9%蒸発してしまった。立命館大の松尾匡教授という積極財政の先生が9月に推計を行いました。

インバウンドが蒸発して、どのくらい税収が減るのか。年間で大阪府税337億円、大阪市は最大138億円の税収が減ってしまった。東京や大阪でインバウンドにすごく依存した体質を作って来たから、それがこけてしまった時に税収上の損失が出てしまうことがすでに起きている」

◆大石氏「大阪が変われば、日本が変わる」

大石氏はさらに、「この大阪が変われば、日本が変わる」と強調した。

「大阪と日本社会全体がどんな悪循環に陥ってきたのか。今一度、考えてみたい。インバウンド優先・依存の経済を作った。内需、市民の消費支出は落ち込んでいる。大阪は成長しない。

こんな状況で結婚もできない、子供も産めない。若い人は奨学金の返済も大変です。大阪に住んでいる人達の暮らしはどんどんしんどいものになってきている。そして、せめて頼ったインバウンドもコロナで蒸発した。『どうしてくれるのか!』という話ですよね。

この悪循環を作ってきた、企業の利益や生産性、勝手な生産性だけを求めた悪循環を止めて、本当の大阪の経済再生ができる社会を作る。

『少子化が続く』ありきではダメ。『少子化が続く』と言っている人(松井市長)が政治家にいてはいけないと私は思う。コロナ対応と大阪の経済再生ができる社会を大阪から作りましょう」

ちなみに松井大阪市長は、住民投票で大阪都構想が否決されたら政界を引退することを表明している。この住民投票は、松井市長による維新市政への審判も兼ねているといえるのだ。

◆山本代表「都構想は、大阪府が大阪市の財源をカツアゲするようなもの」

大石氏の大阪報告を受けて山本代表が、大阪都構想の説明を加えて次のように取りまとめた。

「『少子化はこのまま続くではないか。他のもので金を稼がないと(いけない)』みたいな話になって、外国人に頼る話になったとしたら、外国人が来なくなったら行き詰るに決まっているではないですか。

そうではなくて、しっかりとした土台。少子化という現実はあるが、どう打破できるのかをやっていかないといけない。でも、そういうことは恐らく(維新府政・市政では)やってこなかったということです。

(大阪都構想で)大阪市を消滅させて4分割することによって、2000億円程度がカツアゲされるという話をしました。それを大阪府がコントロールをしていくという話ですが、これはそもそもが間違いです。

ハッキリ言うと、大阪市の財源に手を突っ込んでくるなという話なのです。大阪府はカネがないから、大阪市に手を突っ込んでやろうというのが都構想。橋下(徹)さんが2011年に言っていた『大阪市が持っている権限、力、お金をむしり取る』という考え方自体が間違っている。ただのカツアゲですよ」

◆菅政権のもとでは、中小零細企業はさらに厳しくなっていく!?

さらに筆者が菅政権についても聞くと、山本代表は次のように語った。9月21日の梅田駅前のゲリラ街宣後の囲み取材の時のことだ。

「菅さんに質問しても、ずっと“塩”対応だったので。塩みたいな答弁しか返してくれない。でも個人的にトイレでご一緒する時には、非常に柔らかい会話をしてくださる方なのです。『最近、慣れてきましたか』とか、非常に人たらしの方です。でも一方で仕事となると、ちゃんと答弁をしなければならないところをきっちり答弁しない。

菅さんがトップに就いていちばん問題なのは、安倍政権(首相)の答弁よりもさらに“塩”ですよ。数々の疑惑が出てきたのに、どうして安倍政権が7年8か月、乗り越えられてきたのは菅官房長官の力ですね。『力』というのは何かというと、答えているようで答えない。

『問題ない』ということで終わらせることを、繰り返しやってきた強靭な精神力だと思います。だから、その方がトップに立つというのは、かなり野党側としては手ごわい。

あの方が会食を重ねている方々、竹中平蔵さんとかアトキンソンさんとかを見ていると、これは新自由主義、弱肉強食にしていく(のではないか)。どんどん淘汰されていく。『潰れそうなところはどんどん淘汰されていけばいい』という方向性にどんどんなっていくだろうなと思います。

と考えると、中小零細企業はこの国の企業総数の99.7%ですから、そう考えると先は非常に厳しい状況。ここを打破していけるのは、次の選挙だと思っています」

◆新自由主義・弱肉強食の社会か、脱新自由主義・庶民による内需重視の社会か

前出の大石氏も、インバウンド需要依存をともに進めてきた菅政権と維新の蜜月関係をこう語っていた。

「菅政権はインバウンド需要依存を推進してきました。デービッド・アトキンソン(小西美術工芸社社長)がインバウンド政策のブレーン。インバウンドを増やして、お金持ち向けのホテルが50くらい足りないのでもっと作れと言っていたり、『中小企業は財産・宝ではありません』ということを論文で書いていたりするような人です。

安倍政権から菅政権になって、さらにインバウンド(訪日外国人旅行)需要依存になっています。これを脱却することが、住民が豊かになる始まりだと私は思っています。そのキーになる地がこの大阪だと、大阪の人間としても思うし、日本全体のことを考えても思います」

次期総選挙の構図がはっきりと見えてきた。「大企業や富裕層がますます富む弱肉強食の新自由主義(インバウンド需要依存も含む)」と「一般庶民の家計消費底上げの内需重視の脱新自由主義」の対決だ。その前哨戦が、維新政治への審判も含む大阪都構想住民投票というわけだ。11月1日までの、両陣営の論戦が注目される。

<文・写真/横田一>

【横田一】

ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数