昨年7月の参院選広島選挙区をめぐる買収事件で、公選法違反の罪に問われた参院議員、河井案里被告(47)の公判に、夫で元法相の衆院議員、克行被告(57)が22日から証人として出廷する。これまでの公判で現金を受領した議員や秘書ら陣営スタッフの大半が、「買収の意図を感じた」「克行被告に指示され公示前に投票依頼をした」などと、夫妻の主張と相いれない証言をしている。弁護人を解任して1カ月以上も法廷から姿を消していた克行被告が再び何を語るのか、注目が集まる。
受領者は趣旨認め
夫妻の公判は東京地裁で8月25日に始まり、当初は夫妻を同時に審理。139人の証人尋問が見込まれ、12月まで期日が指定されていた。しかし、克行被告が9月15日の公判終了後に弁護人6人全員を解任したことで審理が継続できなくなり、案里被告の公判だけが進行している。夫妻は現金を渡したことはおおむね認めた上で、参院選の買収目的とされた現金の趣旨について「日ごろの党勢拡大などの政治活動だった」などと無罪を主張している。
案里被告は広島県議ら地元議員5人に克行被告と共謀して現金計170万円を渡したなどとして起訴された。議員5人の証人尋問は今月5日までに終わったが、うち4人が「参院選で応援してほしいという趣旨だと思った」などと証言し、買収されたとの認識を示した。岡崎哲夫県議(65)は受領した現金30万円の趣旨を「(自分の)当選祝いだと思った」とする一方、「(参院選の)支援依頼との趣旨もあったかもしれない」とも話しており、夫妻にとって厳しい状況が続く。
投開票日も運動
案里被告の公判では、夫妻の秘書ら陣営スタッフの証人尋問も行われてきた。検察側は陣営の内情に関する証言を通じ、総額約2900万円にのぼる大規模買収事件の背景を浮き彫りにするため、陣営が公示前に違法となる選挙運動をしていたことや、克行被告が選挙運動全体を取り仕切る「総括主宰者」だったことなどの立証を進めている。
証人尋問では秘書らが異口同音に、「克行被告が全体をとりまとめていた」と述べ、公示前についても「集票や投票のお願いをしていた」と証言。元陣営スタッフは、選挙運動が禁じられている投開票日にも克行被告の指示で「電話作戦をしていた」と明かした。
議員未処分に疑問
検察側はこれまで、陣営関係者と現金を受け取った地元議員の双方から主張に沿う証言を引き出し、審理を優位に展開している。しかし、議員ら被買収者がいまだに刑事処分されていないことに、現職の検察幹部からも疑問の声が上がる。
ある幹部は「通常なら被買収者も処分した上で公判に臨む。なぜ立件しなかったのか、明確な理由が見いだせない」と打ち明ける。公選法に詳しい検察OBの弁護士も「(議員らが)処分をてんびんにかけられているのであれば、供述の信用性は担保できていない。公正な裁判のため、一刻も早く処分すべきだ」と述べる。
夫妻にも隔たり
夫妻はそろって無罪を訴えるが、案里被告側は克行被告が総括主宰者だったことを認めるなど、2人の主張が一致しているわけではない。16日の公判では、案里被告の元秘書が、事件の原因がすべて克行被告にあるとして、案里被告に夫と“決別”するよう訴えた。
こうした状況の中、克行被告は妻の公判で22、23、28日の3日間、証人尋問に臨む。弁護人も不在で、どこまで踏み込んだ発言をするのかは不透明だ。一方で、関係者によると、案里被告は「真実を明らかにしたい」などと周囲に語り、今後の被告人質問に強い意欲を示しているという。