国立工芸館が金沢へ引っ越し 25日に開館 政府機関移転の一環

政府が進める地方創生の一環で東京国立近代美術館工芸館(国立工芸館、東京都千代田区)が金沢市に移転し、25日に一般公開される。日本海側では初となる国立美術館で、所蔵する美術工芸作品約2800点の7割に当たる約1900点が移る。内閣官房によると、一般に公開されている国施設の地方移転は初めて。
国立工芸館は工芸専門の唯一の国立美術館で、1977年に東京・竹橋に開館。加賀友禅や九谷焼などで知られる石川県が移転を希望し、2016年に決定した。移転に伴って、唐沢昌宏新館長や学芸員4人を含む職員約10人が金沢に居を移した。官公庁や機関では、総務省の一部が18年に和歌山市に移ったほか、文化庁も22年度以降に京都市に移転する。
国立工芸館が移るのは金沢21世紀美術館など文化施設が集まる市中心部。建物は近くにあった旧陸軍第9師団司令部庁舎と、将校の社交場として使われた金沢偕行(かいこう)社(いずれも国登録有形文化財)を移築・整備して活用する。安全性を考慮し、展示室は鉄筋コンクリート造りで復元した部分に配置し、高精細な画像で鑑賞できる最新機材も備える。名誉館長には、サッカー元日本代表で伝統文化のPRに取り組む中田英寿さんが就任する。
25日からの開館記念展では、明治期の金工家、鈴木長吉の銅置物「十二の鷹」(国重要文化財)や金沢出身で人間国宝の漆芸家、松田権六の飾り箱「蒔絵螺鈿有職文筥(まきえらでんゆうそくもんはこ)」など日本の近代工芸を代表する作品約130点を紹介する。国立工芸館主任研究員の花井久穂さんは「金沢に来たことで、地元の作家らに刺激を与える存在でありたい」と語る。
地元では新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた観光面での期待も高い。周辺には国の特別名勝・兼六園など10カ所以上の文化・観光施設が集まる。県の担当者は「金沢に新たな魅力が加わった。国立の美術館は訪日外国人にもアピールしやすい」と話す。
入館するにはオンライン予約が必要で、入館制限も設ける。【阿部弘賢】