収穫直前のミニトマト100キロ盗まれる 生産者の悲しみと怒り 熊本・玉名

熊本県玉名市横島町のビニールハウスから、収穫直前のミニトマト約100キロが盗まれた。2016年の熊本地震や20年7月の九州豪雨、新型コロナウイルス感染拡大の影響にも耐えて育ててきた農家にとって、赤く熟したトマトは宝物だった。それがこつぜんと消え、生産者は悲しみと怒りに打ちひしがれている。
「突然のことで、最初は何が起きているのか分からなかった」。21日朝に被害に気付いた農家の林田裕美さん(39)は、27日に現場を訪れた記者に困惑した表情を見せた。
21日午前9時半ごろ、収穫作業をしていた林田さんは、数日前まであったはずのミニトマトがハウスの一角でごっそりなくなっているのに気付いた。130アールのうち15アールで、約100キロ(約10万円相当)のトマトがもぎ取られていた。ハウス内で約80メートルの列で植えたトマトが4列半にわたって盗まれており、林田さんは「20年以上栽培してきた私でも、これだけの量を収穫するには3時間以上かかる。経験のある人がやったのではないか」と話す。
林田さんはすぐに被害届を提出。県警玉名署がハウスに残された指紋や足跡を調べるなど窃盗容疑で捜査している。
横島町周辺は約200軒の農家が栽培するトマトの産地。林田さん一家は、夫の昇さん(42)の祖父の代から、70年以上にわたり生産を続けてきた。3代目となる林田さん夫妻は強い根が育つよう栽培方法の改良を重ね、温暖な気候と塩分を適度に含んだ土地を生かして甘いトマトを作ってきた。
横島町のミニトマトの収穫時期は10月から翌年の6月末だが、16年4月の熊本地震ではハウス7棟で柱にひびが入ったり、水はけが悪くなって苗が腐りやすくなったりするなどの被害が出た。今年は4~6月に新型コロナウイルスの影響でトマトディップなど加工品向けの需要が激減したうえ、7月の九州豪雨ではハウス4棟(約20アール)が浸水し苗が全滅した。
こうした苦境が続く農家にとって、収穫が始まったばかりのミニトマトは重要な収入源だ。林田さんは「今はトマトの値が一番高い時。この時期のために真夏の暑い日も懸命に育ててきて、『やっと収穫できる』と心待ちにしていた。あまりにもひどい」と憤る。
被害を受けたハウスには新たに鍵を取り付け、防犯カメラなども設置した。周辺の農家も含めて防犯対策を強化するため、11月初旬からクラウドファンディングで資金を集めることも検討している。林田さんは「もう二度と、こんなことはしないでほしい」と語気を強めた。【栗栖由喜】