ホエールウオッチングのシーズン最終盤を迎えた10月下旬、高知県室戸市沖の土佐湾でニタリクジラの群れが連日姿を見せている。群れの出現は珍しく、ガイドを務める船長も「とても珍しい。自分も初めて見た」と驚く。好天に恵まれた朝、貴重な光景に出合うべく、他の観光客と共に洋上へと繰り出した。【郡悠介】
26日午前8時半、観光客8人と小型の漁船に乗り込み、土佐市の宇佐しおかぜ公園を出発。約2時間後に観察ポイントの沖合に到着した。周囲を見渡すと、至る所にニタリクジラの姿が見えた。その数およそ10頭。いずれも体長10~13メートルほど。人に慣れた様子で、船が近づいても周辺を悠々と泳いでいる。船の下を通過する個体もいれば、2頭並んで泳ぐ親子とみられる姿もあった。クジラが潮を吹きに海面に上がるたび、船上の客からは歓声が上がる。クジラが起こす水しぶきで、海上に虹がかかる場面もあった。
ガイドを担うホエールウオッチング宇佐(土佐市)によると、土佐湾で見られるニタリクジラは周辺海域に住み着いているという。数十頭の個体は地元ガイドらに識別され、「ぼこみ」「与三郎」などと呼ばれている。
ニタリクジラは通常、県西部の足摺岬方面で見られるが、珍しい群れが見られるという地元漁師の目撃情報を受けて、ガイド船は25日から県東部の室戸岬方面へ向かうようになった。船長歴20年以上の鳴滝丈泰さん(51)は「(普段は)3頭見られるだけでも多い方」と群れの出現に驚く。「特に今年は数が少なく、(昨年から再開した商業)捕鯨の影響を心配していた」とほっとした様子を見せながら、「これほど多い群れを見るのは自分も初めてで分からないが、繁殖期を迎えて餌場を求めに来たのではないか」と分析した。
冬場はニタリクジラが更に沖へと移ることなどから、ホエールウオッチング宇佐の営業は10月末まで。最終盤での貴重な光景に、鳴滝さんは「『こんな自然もあるのか』と観光客に見せられてうれしい。これからも土佐湾の自然の素晴らしさとクジラの魅力を伝えていけたら最高です」と笑顔で話した。