2人死亡の住宅地、災害後調査で警戒区域基準に合致 家購入の夫妻「指定なら買わなかった」

2019年10月の台風21号の影響による大雨で、千葉県内では災害関連死を含めて12人が犠牲となった。このうち土砂崩れで女性2人が亡くなった千葉市緑区誉田町の住宅地は、崖の傾斜角が基準に満たないとして、土砂災害警戒区域に指定されていなかったが、災害後に高精度のデジタル地形図を用いた調査などで基準に達していることが判明し、県は年度内にも指定することを決めた。県は未指定の土砂災害の恐れのある他の箇所についても、21年5月末までに指定を完了させる。【秋丸生帆、長沼辰哉】
県内では、誉田町以外に、同区板倉町と市原市郡本で発生した土砂崩れで2人が死亡。この2カ所も警戒区域に指定されていなかったが、危険な箇所として公表され、指定に向けた基礎調査などが行われていた。一方、誉田町の現場は、県が04年に指定に向けた調査対象を地図上から抽出した際、警戒区域の基準を参考にした崖の高さ(5メートル)や傾斜(30度)に満たないと判断し、対象から外した。
国土交通省によると、19年の台風19、21号による大雨などで、人的被害や一部損壊以上の住宅被害のあった土砂崩れは全国で259カ所で発生し、112カ所は警戒区域に指定されていなかった。同省が同年12月に設置した土砂災害防止対策小委員会は、航空機からレーザーを照射し地形を三次元的に読み取った高精度のデジタル地形図を使った検証を行い、誉田町を含む未指定の51カ所は基準を満たす可能性があると指摘した。
国交省は今年8月、デジタル地形図などを活用して土砂災害が発生する箇所を抽出するよう、土砂災害防止対策基本指針を改定。県はこれらの動きを受けて同月、誉田町で現地調査を行い、傾斜が30度以上あることなどを確認し、警戒区域に指定することを決めた。一部は危険性が特に高い特別警戒区域に指定され、一定の開発に制限が加えられる。
県内では、抽出した危険な箇所のうち警戒区域への指定率は、19年8月末時点では全国最低の約36%だったが、今年9月末時点では約54%となった。県は21年5月末に指定を完了させる予定で、大村晃・土砂災害担当課長は「人命が失われたことを重く受け止め、作業を進めていきたい」と話している。
警戒区域に家購入の夫妻「指定なら買わなかった」
「土砂災害警戒区域に指定されていれば、家を買うことはなかった」。2019年10月の大雨で土砂崩れが起きた千葉市緑区誉田町で、崖の上に暮らしていた女性は途方に暮れた様子で話した。
同月25日午後1時ごろ、降りしきる雨の中、自宅に1人でいた女性は大きな地響きを聞いた。「飛行機でも落ちたのでは」と窓の外を見ると、崖に面した庭が崩れてなくなり、崖下の住宅が土砂にのみ込まれていた。女性は119番通報し、避難した。
翌朝、自宅に戻ると、玄関に「危険宅地」と書かれた赤色のステッカーが貼られていた。「今にも家が崩れるのではないか」と心配しながら、夫婦の思い出の品などを運び出した。親戚宅や市営住宅を経て今年8月からみなし仮設住宅で暮らしている。慣れ親しんだ自宅を離れてしばらくは、突然涙がこみ上げることがあった。
自宅を購入したのは09年。不動産業者から「地盤はしっかりしている」と説明を受けたといい、危険な地域とは思っていなかった。自宅の敷地を含む一帯は土砂災害警戒区域に指定されることになる。夫は「危険性が分かっていれば家を買うことはなかったが、今では思い出のある家。簡単に(手放す)踏ん切りはつかない」と話す。
土砂崩れ現場は、擁壁工事が行われるが、完了しても自宅で安全に暮らせるか分からない。夫妻は「元の生活に戻るため、市にも協力してもらって家の安全を確保したい」と話した。【長沼辰哉】