婚活を始めて、6回目の秋が来る。結婚相談所を通じて、女性にお見合いを申し込むこと15回以上。ほとんどは、会うことすらできない“門前払い”だった。よく独りランチに来るファミリーレストランで、光枝藤夫さん(72)=熊本県、仮名=はため息をついた。
1年前、お見合いをしてくれる女性が現れた。50代、離婚歴あり、子ども1人。カメラという共通の趣味があった。「きっと息の合うばい」。期待に胸を膨らませ、相談所の事務所で初対面。風景や女性モデルを撮ってきた経験をアピールした。「写真ば一緒に撮りに行ってよかよ」。デートに誘ったが反応が薄い。会話は10分で途絶えた。「次、いつ会うかね?」と尋ねてみると「あんたとはもう会わん」とひと言。明確な理由は分からないままだ。
門前払いが続く理由は、見当が付いている。上等なシャツを着て、写真館で撮った笑顔の勝負写真だが、157センチ、80キロ。医者から節制を求められる体形だ。「よか顔しとっとも思わん。見た目は50点くらい」と自己分析する。ただ「会ってみんと分からんことってある。おいも50点しか求めんし、バツイチでん、バツニでんよかとに」。ぜいたくを言うつもりはない。
23年前、30代だった妻を乳がんで亡くした。15年間の結婚生活、子どもには恵まれなかった。鉄工所に63歳まで勤め、3年前には100歳目前の母を見送った。今も妻と暮らした市営住宅に住む。朝、菓子パンを食べてテレビの時代劇を見て、昼食はうどん店やファミレスでワンコイン。また時代劇を見て、夜はスーパーの弁当、風呂に入って寝る毎日。年金は月に10万円足らず。携帯電話は持たず、誰かと話すのはスーパーのレジで店員とひと言、二言だけという日もざらだ。「子どもがおったら、婚活せんでよかったかもしれんなあ」
独りが当たり前、孤独には慣れた。でも、門前払い続きではさすがに心が折れそうだ。「身の回りの世話をしてくれて、遊んでさらかん(遊び歩かない)、無駄遣いせん人がよかな。きれいに越したことはなかばってん」。まだ、希望は捨てていない。
還暦を超えても、新たな出会いを、次の伴侶を探す人々。その理由はさまざまだ。
「楽しいことを共有できるパートナーがほしいんです」。松井チサ江さん(73)=熊本県、仮名=は5年前、すし職人だった夫を胃がんで亡くした。1カ月間は落ち込んだが、すぐに気持ちを切り替えた。「旦那は旦那、私は私の人生を好きに生きようってね!」
費用無料の結婚相談所に登録し、婚活を始めたものの、何とも思わない人には好かれるのに、ビビビときた人とのご縁は年齢が邪魔をする。婚活あるあるの「ミスマッチ」が悩みだ。
これまでに2人からお見合いを申し込まれた。1人は写真を見た段階で断った。「小柄で太っててね。こぎれいやったら許せるけど、じゅんだれとった(だらしなかった)」。周りに紹介しても恥ずかしくない程度の人がいい。
もう1人は一回り下で初婚と、一見“好条件”。会ってみるとおとなしくて、気を使ってしゃべり倒したら、「結婚を前提に交際したい」と迫られた。でも迷わず断った。「リードせないかんし、しゃべれば仕事の愚痴ばっかり。いっちょん(全然)楽しくなかった」
“失恋”も経験した。相談所で、70代男性の写真を一目見て、優しそうで恰幅の良いルックスに引かれた。が、プロフィル欄の文字に落胆した。希望年齢は「45歳まで」。「男はやっぱり若い人がよかとやね…」
九州各地の婚活パーティーにも度々足を運び、男性に電話番号を渡してきたが、連絡が来たことはない。婚活温泉バスツアーでは「みんな、温泉の後、脱衣所で、ファンデーションを一生懸命塗りよった」。ぬかりないライバルたちに圧倒された。
趣味は旅行。年齢を60代と偽り採用されたパートの給料と年金で遊び回っている。ただ、友人は夫がいたり、年金暮らしで余裕がなかったりで一人旅が多い。旅館の食事どころで、仲むつまじい夫婦と夫婦に挟まれ、ぽつんと食べるごちそうは味気なく、寂しい。
結婚したい男と女。パートナーを求める思いに年齢制限はない。長い人生、もう一度、ときめきと幸せが訪れると信じて。 =文中仮名
(吉田真紀)