交通死亡事故などを起こし、刑が確定した受刑者約140人を収容する千葉県市原市の市原刑務所。刑務作業として受刑者が励むシイタケ栽培が、苦境に直面している。昨年9月の台風15号では停電で施設の空調が止まり、ほとんどを廃棄せざるを得なかった。生産が持ち直したかと思えば、今度は新型コロナウイルスの流行で販路が絶たれてしまった。担当者は「厳しい状況でも受刑者は真面目に栽培を続けている。普段は完売するほど人気なので、この機会に食べてほしい」と呼び掛けている。(共同通信=永井なずな)
▽ジューシーな食感
フライパンで軽く焼き色を付けたシイタケに醤油を回しかけ、仕上げにバターを一かけ落とす。できたてをほおばると、ジューシーな食感と凝縮された香りが口中に広がった。受刑者の生活を展示パネルで紹介したり刑務作業で作られた製品を低価格で販売したりする「矯正展」と呼ばれるイベントに出品されると、すぐ完売する人気の品というのはうなずける。「調理法はシンプルな方が、素材の美味しさが引き立つのでおすすめ」。市原刑務所職員のアドバイスは間違いなかったようだ。
市原刑務所は、JR五井駅から南東に約9キロ先の山あいにある。受刑者は全員男性で、服役期間は平均2年半ほど。防犯設備で区切られた施設内で日々の時間割に従って生活している。
市原刑務所
刑務作業は、季節や自然環境の影響を受けず年間を通じて安定して仕事があることが条件だ。同刑務所がシイタケ栽培を始めたのは2012年。「天候に左右されやすい原木での栽培でなく、菌床を使う方法なら導入できる」と見込んでのことで、全国の刑務所で初めての試みだった。
▽リピーターも
防犯センサーが設置された格子のドアを通り抜けた先にあるのは、食堂や作業施設が並ぶ受刑者の生活エリア。シイタケ菌を扱う施設に入室するには、雑菌の侵入を防ぐために履物を消毒する必要がある。薄暗くひんやりとした培養室では、人の背丈より高い棚に数千個のシイタケの株がズラリと並ぶ。受刑者がここで普段、施設の湿度や温度を管理したり、食べごろを見極めて収穫したり、大型の乾燥機で干しシイタケに加工したりといった作業を担っている。
市原刑務所の受刑者が栽培したシイタケ
「支援の気持ちで買ってもらえることは大切な一歩だが、高品質なものを作って繰り返し食べてもらえることをその先の目標に掲げてきた」と、刑務作業を担当する上出康二看守長は振り返る。各地で開かれる販売会やイベントに出品すると「肉厚で値段も手頃」「良い出汁が出る」と好評になり、リピーターも現れた。朝礼で評判を伝えると、うれしそうにする受刑者もおり、作業が丁寧で自発的になるなど態度にも変化がみられたという。
▽更生を後押し
だが、昨年9月の台風15号では、千葉県内で最大約64万戸が停電、暴風で市原市のゴルフ練習場の鉄柱が倒れるなど各地に大きな被害が出た。
同刑務所では、受刑者が過ごす部屋や防犯上の設備は自家発電機で電気をまかなえたものの、シイタケ栽培の作業施設は4日間停電。培養室などで育てていた数千個の菌床は全て腐り、生えかけだったシイタケも形や色が崩れていった。「看守と受刑者で、汗だくになって黙々と畑に廃棄した。つらかった」(職員)。
矯正協会のホームページより
生産が再び軌道に乗りだしたころ、今度は新型コロナで出品予定のイベントが軒並み中止になってしまった。日持ちしない生シイタケの生産は抑え、代わりに乾燥させた商品を増やすといった工夫を続けているが、売り上げは例年の3分の2に落ち込み、今も低迷している。
上出看守長は「社会との接触が限られる受刑者にとって、作ったものを食べてもらえるのは大きな励みになる。更生を後押しする意味でも、多くの人に手に取ってもらえれば」と語る。生産品は同刑務所に併設の展示場や公益財団法人「矯正協会」のホームページで購入できる。
矯正協会の全国刑務所作業製品即売会のホームページはこちら
https://www.e-capic.com/