国家の安全保障を担う防衛省に前代未聞の騒動が起きていた。防衛省では毎年、全組織から独立した立場にある大臣直轄組織の「防衛監察本部」が、各部門で適切な職務執行が行なわれているかをチェックしている。この「防衛監察」のなかで、10月下旬に聞き取り調査の対象となった防衛大教授が、監察本部などに対して逆に「学校長をはじめとする防衛大の執行部の総退陣」を求める“告発状”を提出したのだ。文書の送付先には、9月に発足した菅内閣で就任したばかりの岸信夫・防衛相も含まれている。一体、何が起きているのか――。 * * * 11月7日、防衛大の学生の新型コロナ感染が判明した。全寮制である防衛大の学内では初めての感染者となった。感染した学生は医療機関に入院中だが、濃厚接触者となった同部屋の学生らは隔離生活を送っているという。感染判明を受け、防衛大は防大ツアー(キャンパス見学)当面の中止を発表するなど、対応に追われている。 そうしたなか、防衛大学校執行部のコロナ禍への対応をめぐる不祥事を告発する「申立書」が、岸信夫・防衛相および防衛監察本部に宛てて送られていた。送付されたのは11月初旬のことで、差出人は防衛大学校教授(人文社会科学群国際関係学科)の等松春夫(とうまつ・はるお)氏だった。 「防衛大の教授が、本省のトップである防衛大臣に宛てて“防衛大執行部の総退陣”を求める書面を送るなんて、前代未聞のことです。 等松教授は防衛研究所や海上自衛隊幹部学校、航空自衛隊幹部学校、統合幕僚学校でも長年にわたって講義を担当しており、客員教授などとして講義を担当した経歴があり、2009年から防衛大教授を務めている人物です。政治外交史、軍事史の専門家として国内外で高い評価を得ている教授だけに、本省のほうでもどう対応すればいいのか、相当に悩ましい問題となっている」(防衛省関係者) 神奈川県横須賀市にある「防衛大学校」は、将来の幹部自衛官を養成する教育・訓練施設だ。4学年の約2000人が敷地内の寮で学生生活を送るが、新型コロナの感染拡大による緊急事態宣言下の4月から5月にかけて、訓練も授業も行なわれていないのに、学生たちが敷地からの外出を許可されない“軟禁状態”にされていた。等松教授が今回、岸防衛相らに申出書を送った原因の発端は、こうした防衛大のコロナ対応のまずさにあったという。 「等松教授が送付した文書ではまず、コロナの感染拡大が続く3月下旬に春期休暇で帰省中だった学生を大学校敷地内にわざわざ呼び戻した対応に疑問を呈しているといいます。約500人の新1年生も、4月1日から着校させられた。
国家の安全保障を担う防衛省に前代未聞の騒動が起きていた。防衛省では毎年、全組織から独立した立場にある大臣直轄組織の「防衛監察本部」が、各部門で適切な職務執行が行なわれているかをチェックしている。この「防衛監察」のなかで、10月下旬に聞き取り調査の対象となった防衛大教授が、監察本部などに対して逆に「学校長をはじめとする防衛大の執行部の総退陣」を求める“告発状”を提出したのだ。文書の送付先には、9月に発足した菅内閣で就任したばかりの岸信夫・防衛相も含まれている。一体、何が起きているのか――。
* * * 11月7日、防衛大の学生の新型コロナ感染が判明した。全寮制である防衛大の学内では初めての感染者となった。感染した学生は医療機関に入院中だが、濃厚接触者となった同部屋の学生らは隔離生活を送っているという。感染判明を受け、防衛大は防大ツアー(キャンパス見学)当面の中止を発表するなど、対応に追われている。
そうしたなか、防衛大学校執行部のコロナ禍への対応をめぐる不祥事を告発する「申立書」が、岸信夫・防衛相および防衛監察本部に宛てて送られていた。送付されたのは11月初旬のことで、差出人は防衛大学校教授(人文社会科学群国際関係学科)の等松春夫(とうまつ・はるお)氏だった。
「防衛大の教授が、本省のトップである防衛大臣に宛てて“防衛大執行部の総退陣”を求める書面を送るなんて、前代未聞のことです。
等松教授は防衛研究所や海上自衛隊幹部学校、航空自衛隊幹部学校、統合幕僚学校でも長年にわたって講義を担当しており、客員教授などとして講義を担当した経歴があり、2009年から防衛大教授を務めている人物です。政治外交史、軍事史の専門家として国内外で高い評価を得ている教授だけに、本省のほうでもどう対応すればいいのか、相当に悩ましい問題となっている」(防衛省関係者)
神奈川県横須賀市にある「防衛大学校」は、将来の幹部自衛官を養成する教育・訓練施設だ。4学年の約2000人が敷地内の寮で学生生活を送るが、新型コロナの感染拡大による緊急事態宣言下の4月から5月にかけて、訓練も授業も行なわれていないのに、学生たちが敷地からの外出を許可されない“軟禁状態”にされていた。等松教授が今回、岸防衛相らに申出書を送った原因の発端は、こうした防衛大のコロナ対応のまずさにあったという。
「等松教授が送付した文書ではまず、コロナの感染拡大が続く3月下旬に春期休暇で帰省中だった学生を大学校敷地内にわざわざ呼び戻した対応に疑問を呈しているといいます。約500人の新1年生も、4月1日から着校させられた。