家庭内暴力(DV)などに苦しみ、身の安全を守るために逃れてきた母子などが自立を目指して数年程度を過ごす施設がある。児童福祉法に基づいて運営される母子生活支援施設(旧母子寮)だ。母親と子どもの人権を守る「最後の砦(とりで)」と呼ばれるが、認知度の低さが課題とされている。25日の女性に対する暴力撤廃の国際デーを前に、施設の実態を詳しく知るため、静岡市葵区にある千代田寮を訪ねた。【古川幸奈】
「誰も助けてくれない」そうじゃなかった
千代田寮はJR静岡駅から車で10分ほどの閑静な住宅街にある。4階建ての建物で外見は普通のアパートと変わらない。施設の職員が母子の暮らす寮の一室を案内してくれた。
部屋は2Kの畳敷き。台所、浴室、トイレ、ベランダがあり、狭さは特に感じない。家賃は公費でまかなわれているという。家具や家電などは自身で用意する。ただし、入寮の直後は無料で家電を借りられる。母子は世帯ごとに生活を営み、2~3年程度で退寮する。「着の身着のままで逃げてくる女性たちが多い。貯蓄を増やし、仕事を見つけて自立していきます」。職員が教えてくれた。
千代田寮は11月1日現在、28世帯の75人が暮らす。入寮の理由はさまざまだ。健康上の問題などで母子のみの生活が難しかったという世帯もある。しかし、約8割がDVと圧倒的に多数を占めている。施設は24時間体制で職員が子育ての相談にのったり、子どもの勉強の面倒を見たりして、世帯の生活を支えている。
千代田寮で暮らす30代の女性が入寮までの経緯などを打ち明けてくれた。女性は夫のモラルハラスメント(言葉や態度による嫌がらせ)、DVから逃れるため、19年末に子どもたちを連れて県外からやってきたという。
結婚生活は苦労の連続だった。夫に「お前は母親失格だ」などとののしられ、スマートフォンに居場所や行動を監視するためのメッセージが頻繁に届いた。一見すると異常ともいえる行動だったが、夫は家の外で子煩悩と思われていた。友人に相談しても「もっとうまくやれば」と寄り添ってもらえず、自分を責める日々が続いた。
日常的に繰り返される暴力に泣きじゃくる子どもたち、夫の機嫌ばかりを気にする自分。女性は「自分が幸せじゃないのにどうやって子どもに幸せを教えられるんだろうって、今のままじゃダメだと思った」と振り返る。近所の人の薦めで自宅近くにある行政の相談窓口を訪ね、千代田寮への入居が決まったという。
女性は入居後に夫との離婚が成立、新しい仕事も見つかった。第二の人生を歩み始め、「以前は離婚すれば生活に困窮し、誰にも助けてもらえないというイメージがあったが、そうじゃなかった。千代田寮は職員に本音を相談できるので安心感がある」と話した。
千代田寮の森茂雄寮長は「誰にも相談できず、頼る場所がない人たちを受け入れたい。施設はゆっくりと将来について考える場にもなる。再出発のきっかけにしてほしい」と語り、積極的に行政や民間の相談窓口を利用することを呼びかけている。
DVの電話相談「#8008」に
内閣府は10月、DVの被害者が電話で相談をしやすくするための全国共通短縮ダイヤルとして「#8008」(DV相談ナビ)を導入した。電話すると、各都道府県に設置された最寄りの相談センターなどに自動転送される仕組みだ。
内閣府は新型コロナウイルス感染症の流行による外出自粛で、夫婦が顔を合わせる機会が増え、暴力を振るうケースがあると指摘する。一方、県女性相談センターに寄せられた5~9月のDVに関する相談は109件、前年同期比23件減だった。相談ができずに埋もれている被害者がいるとの見方もある。
DVや性暴力の電話相談窓口一覧
・県性暴力被害者支援センターSORA(そら)
054・255・8710
24時間受け付け、チャットで対応可
・県女性相談センター(配偶者暴力相談支援センター)
054・286・9217
祝日と年末年始を除く午前9時~午後8時
・DV相談+(プラス)
0120・279・889
24時間受け付け、メールやチャットで対応可