ながら運転厳罰化1年 「スマホ触らないで」 名神の追突死亡事故、遺族訴え

運転中にスマートフォン(スマホ)などを使う「ながら運転」を厳罰化する改正道路交通法施行から1日で1年を迎えた。2017年に滋賀県多賀町の名神高速道路で起きた、ながら運転をしていたトラック運転手による追突事故で夫の水谷勇二さん(当時44歳)を亡くした女性(49)=愛知県一宮市=が取材に応じた。女性は「同様の事故で苦しむ人が出ないよう、運転中はスマホを触らないでほしい」と訴えている。
車用品の製造加工会社で営業担当だった水谷さんは17年11月、乗用車で会社から大阪の取引先に向かっていた。多賀町の名神高速で渋滞につかまった時だった。後ろから大型トラックが追突し、前方のトラックとの間に挟まれ即死した。乗用車は炎上し、車内に取り残された水谷さんの体は炭化。DNA型鑑定で本人と判別するのに6日を要した。
次男「パパは殺された」
変わり果てた姿で自宅に帰った夫。「対面すれば気持ちが持たないかもしれない」。迷った末、遺体を覆っていた布団の下は見ず、出棺前に布の上から、折れ曲がった右膝をさすることしかできなかった。
当時高校2年だった長男(19)は女性の前では悲しみをこらえていたが、中学3年だった次男(17)は「パパは殺されたんだ。苦しいよ」と泣き叫んだ。水谷さんの父(82)も「もう生きていたくない」と嘆いた。
女性は家族を支え続けられるか大きな不安を抱えながらも、心配させないよう極力笑顔を作った。しかし、クリスマスや正月、家族の誕生日に夫がいない現実を突きつけられ、一人、涙を流した。
その後の県警などの捜査で、トラックの男性運転手が事故直前に、スマホのドライブ計画用アプリの操作などに気を取られていたことが判明した。時速約80キロで約10秒間、200メートル以上にわたり前方の注意を怠り、水谷さんの車の約2・6メートル手前でブレーキをかけたが間に合わなかった。
検察官の求刑を上回る判決
自動車運転処罰法違反(過失致死傷)罪に問われた運転手に対し、18年3月、大津地裁は検察官の求刑(禁錮2年)を上回る禁錮2年8月を言い渡した。裁判官に夫の無念が通じたと感じた一方で、より量刑の重い同法違反(危険運転致死傷)や殺人罪に問えないことが悔しかった。
その後も全国で「ながら運転」による事故が相次いだことを受け、19年12月から運転中にスマホなどを手に持っての通話や画面の注視に対する罰則は「5万円以下の罰金」から「6月以下の懲役または10万円以下の罰金」に、違反点は1点から3点に引き上げられた。県内での検挙件数は、19年は年間8056件だったが、20年は10月末現在、3976件と減少傾向にある。ただ、撲滅にはほど遠い現状だ。
事故から3年が経過した今も、女性は報道で「ながらスマホ」や「高速道路事故」などと聞くと、当時の記憶がフラッシュバックし、涙があふれてくる。夫の遺体を見ていないためか、「どこかでまだ生きている」との感覚が消えない。怒りやさみしさに襲われながら、家事や仕事をこなした日々は「生きるのが精いっぱいだった」と振り返る。
今年8月に、元被告の男性がすでに仮出所していると知ったが、謝罪の申し出などの連絡はない。「加害者は刑期を終えれば罪は消えるかもしれないが、遺族は一生苦しんで生きていかなければならない。もう誰にも、加害者や被害者になってほしくない」。女性の切実な願いだ。【小西雄介】