兵庫県芦屋市のごみ焼却施設を海を隔てて約500メートルの対岸にある西宮市の焼却施設に統合し、建て替えるごみ処理の広域化協議が2017年4月から3年半以上続いている。両市が別々に造るより建設費と20年間の運営費を合わせて130億円も節約でき、焼却の熱量アップで付属施設のごみ発電の効率も上昇、二酸化炭素削減効果も期待できるとされ、いいことずくめのはず。だが、いまだ節約額の“分け前”を巡り、両市の折り合いがついていない。
広域化で20年間で130億円の節約に
「(協議が)迷惑料の話で終わるのは恥ずかしい。みっともない終わり方をしないためのヒントはある」。10月19日の両市のごみ処理広域化検討会議の終了間際、芦屋市幹部が「個人の感想」と断ったうえで発言した。傍聴していた西宮市議の一人は重ねた資料を机でそろえる音を立て、憤りを表した。「芦屋市も費用分担にこだわっているのに『みっともない』なんて」。
西宮市西宮浜の西部総合処理センター(1997年稼働)では、西宮市の人口49万人の半分のごみを焼却。海を隔てた芦屋市浜風町の同市環境処理センター(96年稼働)では芦屋市全域9万人分のごみを処理する。検討会議では、2030年度に西宮側の西部総合処理センターの敷地に1日361トン(西宮分268トン、芦屋分93トン)を燃やせる合同の焼却施設を新設し、両市のごみを受け入れる方法を協議してきた。
老朽化した両施設の建て替え時期は28年前後とほぼ同時期。焼却施設はごみの量が増えるほど1トン当たりの建設単価が下がるとされ、運営費にもスケールメリットが働く。国の交付金などを除いた実質負担額で試算すると、両市が別々に造ると建設費と20年間の運営費は西宮市312億円、芦屋市189億円の計501億円だが、統合すれば計371億円と130億円もの巨額が浮く計算だ。
新焼却場の費用分担を1日当たりのごみ処理量の比で試算すると、芦屋市の負担は96億円。燃やすごみの量が現状の4倍になって単価などが下がり、節約額は93億円に。一方、元々施設の規模が大きい西宮市は広域化しても燃やすごみの量は1・4倍。費用分担も275億円で市単独より37億円節約できるが、縮減分は芦屋ほどではない。
「地球温暖化対策や経済効果も」妥協点求めて
そのため、協議は節約額の“公平感”が焦点になった。西宮市は施設立地による周辺の環境負荷などへの配慮も求め、議論は両市の節約額が65億円ずつ折半にする方向に。芦屋市は「市民が納得できる理由が必要」として、西宮市に上積みした節約額(28億円)を財源にした環境学習促進などの基金を新設し、芦屋市も参画する案を提案した。一方、西宮市は建設・運営費の費用負担分から差し引く案を提示。市議会の突き上げを受け、10月にはさらに節約額の取り分の増額まで求めた。
だが、芦屋市も別の事情を抱える。新焼却施設稼働後は、現状では、焼却場に直接搬入される湾岸部のごみパイプラインを通じ回収されるごみや、市民から直接持ち込まれるごみを一旦集める「中継施設」(約43億円)を単独で建設する費用ものしかかる。市議会の委員会でも市側は「西宮市への節約額の移転が多くなると厳しい」と険しい表情を浮かべた。西宮市は一時、11月中の大筋合意を提案したが、11月24日の協議では次回持ち越しになり、ゴールはまだ見えない。
とはいえ、統合施設が稼働すればごみ発電効率も高まり、その分だけ火力発電を減らしたと換算すると、両市が単独で施設を建設した場合よりも二酸化炭素排出量が13%削減されることに。CO2排出削減は両市が重視する課題で、「地球温暖化対策に役立ち経済効果もある。成就に向けて知恵を絞っていきたい」(石井登志郎・西宮市長)、「広域化は両市が共同で地球温暖化対策などにより大きな規模で取り組む事業だという思いは全く同じ」(伊藤舞・芦屋市長)と妥協点を互いに探り続けている。【井上元宏】
焼却施設の集約化の一方で見送るケースも
ごみの広域処理を巡っては、国が1997年に都道府県に計画を立てるよう通知した。当初は24時間連続で高温焼却できるよう施設当たりのごみ処理量を増やしてダイオキシンの排出を削減する目的だったが、人口減少でゴミが減る中で、処理人員確保や維持コスト負担に耐えられる持続的な施設運営に変わっている。
焼却施設は98年度の1769カ所から2018年度には1082カ所まで減少。300トン以上を燃やせる大型施設の割合は3割から5割に増え、集約化が進む。一方で、広域処理の協議が破談するケースも。兵庫県内では、赤穂市が10月、15年度から相生市と協議してきた広域化の見送りを発表した。相生市側から同市内で民間が焼却施設を建設・運営する事業案への参画を打診されたが、赤穂市は「事業を調査している検討委の処理費用などの最終報告がまだで、相生市から提示された条件だけでは判断できない」と断った。