新聞・テレビが報じない大阪コロナ医療崩壊の真実

大阪・吹田市の万博記念公園にそびえ立つ太陽の塔は、今から50年前に芸術家の岡本太郎氏によって創られたものだ。12月3日午後8時。高さ70mに及ぶ太陽の塔がライトアップされて赤く染まると、周囲は異様な雰囲気に包まれた。

◆新聞・テレビが報じない大阪コロナ医療崩壊の真実

全国紙の記者は12月3日の様子をこう語る。

「この日、吉村洋文大阪府知事は独自基準である“大阪モデル”において非常事態を示す赤信号になったと説明。太陽の塔や通天閣を赤くライトアップし、府民に不要不急の外出自粛を要請しました。

吉村知事がとりわけ頭を悩ませているのが看護師不足問題で、肝いりで用意した十三市民病院では看護師が22人もの大量離職。90の病床を用意したものの、マンパワー不足で現実には60床を回すのが精一杯で限界を迎えています。十三市民病院は大阪における“医療の砦”と位置づけられていただけに、医療崩壊への危機感は最高潮に達しています」

医療現場が逼迫する一方で、実体経済への影響も目に見える形で出始めている。大阪・ミナミで飲食業を営む男性が力なく語る。

「赤信号が灯ったあの日、新地にある老舗キャバクラグループの社長が自殺したと聞きました。クラブのママ連中も資金繰りがアカンようになって自殺した方がおる、とも……。忘年会シーズンだけを頼りに踏ん張ってきたけれど『もうアカン』ってなる店は、これからどんどん出てくるでしょう。正直、自粛要請の直前なんてみんなコロナ慣れして、街もそれなりに賑わっていた。案外イケるかもと思っていたんですが、トドメを刺された思いです」

◆自殺者は急増、10月は2000人を突破

コロナ禍において、最前線で対応を迫られる医療従事者に重すぎる負荷がかかっているのは歴然とした事実である。ただ、それと並行して経済的な逼迫から自死を選ばなくてはならないほど追い詰められる人が増えているのもまた事実だ。

警察庁「令和2年月別の自殺者数について」によれば、自殺者が急増し、10月は2000人を突破。こと女性に関しては雇用関係が不安定なこともあり、前年同期比で40%も自殺者が増えており、事態の深刻さがうかがえる。コロナが収束しない限り、この傾向は今後も続くと推測される。

「危機感の表れか、菅首相は記者会見を開催。ひとり親世帯で低所得家庭には5万円、2人以上の子供がいる世帯には3万円ずつの支援金を、年内をめどに配布すると発表しました。一方でGo Toキャンペーンがコロナ拡大の要因となっているとは考えていないようで、今後も続けていく方針を固持しているようにも感じる。その意味で菅首相は経済を優先するタイプと言えそうですが、そこを野党やマスコミに突かれている印象です」(前出の記者)

◆国内の死者は欧米の50分の1。「正しく怖がる」ことが肝心

経済を回すか、それともコロナの収束を優先させるか――この問題では、2つの命題がとかく対立的に語られがちだ。

そんな中、医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏の見解は新鮮に映る。

「そんなにリスクのないものを大きく怖がってしまい、本当にリスクが大きいものを小さく見積もってしまう。今の日本はこうした錯誤に陥っているように見えます。日本はもとより、東アジア諸国の死亡率は欧米と比べて50分の1程度。1人のコロナ感染者が新たに生む感染者の数を数値化した実効再生産数は全国的にみてダウントレンドにあり、1を下回る自治体もあります。

何より今年、コロナ禍においても総死亡者数は例年を下回っている。これらは統計をみれば数字としてハッキリ出ていることです。コロナが蔓延し始めた当初、ニューヨークやイタリアでは死者累々となり、とんでもない光景が連日報道されました。ただ、現実にはあそこまでひどい事態は日本では起きなかったし、今後も起きるとは考えづらい。日々あらゆるデータと向き合っていてそう思います」

◆臨機応変に対応できる仕組み作りをすべき

コロナは正しく怖がるべき、と主張する森田氏。逼迫する医療現場についてはこう語る。

「医療崩壊という側面が浮き彫りになっていますが、これはオペレーションの問題です。そもそも感染症というのはドバーッと一気に波がきて、終わるときもスーッと引いていくもの。よって地域や自治体の垣根を越えて病院が連携し、病床やICUを確保しながら、フレキシブルに波に対応していくことが求められます。諸外国はそうした対応でしのいでいます。

実は日本は世界的に見ても病床数の多い国なんですが、なぜそれができないかというと民間経営の病院がマジョリティを占め、指揮系統が一本化されていないから。事実、私が住んでいる鹿児島は医療資源が余っているし、コロナ禍で暇になっている医療従事者はたくさんいます。こうしたミスマッチを解消し、臨機応変に対応できる仕組みをつくらないといけない」

◆コロナによって殺されるのは感染者だけではない

医療の中身も議論されるべき問題だ。90代のコロナ感染者にECMOを装着するようなケースを前に、森田氏は危機感を示す。

「コロナでは亡くなるのも重篤化するのも圧倒的に高齢者が多い。中には老衰の過程で免疫が弱まり、感染して生死の狭間にいる患者さんもいると思います。果たしてその方に人工呼吸器やECMOを装着するべきなのか。これは患者さん本人の死生観にも関わってくる問題です。

日本の医療では、患者さんを前にするとどうしても打てる手は全部打とうと頑張ってしまうが、この状況下でそうしたやり方が最適だとは思えません。本当は患者さんを半数程度に減らせたようにも思います。マスコミの過剰な報道もあって、誰もが皆、必要以上にコロナに振り回されてしまっている。自殺者の増加など、副次的な影響にも目を配るべきです」

コロナによって殺されるのは、感染者だけではない。このままでは自殺者の数が感染による死者数を上回る事態も起きかねない。我々はリスクを再評価せねばならない。

◆現実味を帯びる自衛隊の“コロナ出動”

医療崩壊は大阪だけでなく、集団感染が相次ぐ北海道・旭川市でも深刻。専門病院の病床は60~70%が埋まっており、事態は逼迫している。

そこで注目されるのが自衛隊の出動だ。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での対応は高く評価されており、患者の搬送から施設の消毒、診療まで広範な活動が期待される。

<取材・文/週刊SPA!編集部>
※週刊SPA!12月8日発売号より