佐賀知事「意識のずれ」語らず 誓いの鐘批判し、面談の男性「納得いく説明ない」

新型コロナウイルス対策を支援する国の交付金を財源とした「佐賀誓いの鐘」の設置は16日、見送りが正式に決まった。「新型コロナ感染者らへの差別根絶を目指す」と山口祥義知事が発案した事業は、県内外で大きな議論を呼んだ。「コロナ対策交付金で今、何をすべきか」。問われ続けた知事と県民の意識のずれは、最後まで埋まらなかった。
「誓いの鐘」事業では、県出身者も入所していた国立ハンセン病療養所「菊池恵楓園」(熊本県合志市)に佐賀県が寄贈した鐘のレプリカを県庁に設置する計画だった。事業費は約780万円。県議会では「感染が拡大している今やる必要はない」「効果があるのか」といった批判や疑問が噴出。「県の一般財源を充てるべきだ」との指摘もあり、県幹部によると県庁内部でも一般財源化の議論はあったという。
民放の情報番組が県の事業を批判的に取り上げた直後の11月30日正午、知事は自ら県民を県庁の応接室に招き、1対1で意見を交わした。面談したのは、SNS(ネット交流サービス)で交付金の使い道を批判した男性だ。特に知事と関係が深かったわけではなく、県によると知事がこうした「呼び出し」をかけるのは異例だ。
「鐘を作るのは結構。でも、今じゃないのです」。男性は11月下旬、自身のフェイスブックにこう投稿した。「コロナへのこじつけ感があまりにも強すぎる。国の交付金として使い方を間違えているわけではないが県民としては納得できない」。すると数日後、知事から「近々会いましょう」とのダイレクトメッセージが届いた。
県庁での面談で知事は「自分たち県庁職員に足りないことが何かを率直に知りたい」と、男性の意見に耳を傾けた。同交付金を活用する他の事業も話題に上った。「変わらざるを得ない」。知事からは考え方の変化をうかがわせるような発言もあったという。
毎日新聞の取材に、知事は「ちゃんと『おかしい』と言ってくれる人から聞いてみたかった。自分が県民感情から遊離すると嫌だった」と説明した。だが、県側は具体的な動きを見せず、予算修正案は県議会側が提出した。修正は1984年以来、36年ぶり。知事は「議会が判断したということ。差別や誹謗(ひぼう)中傷について考えるきっかけにしてほしい」と言い、県民意識とのずれについては最後まで語らずじまいだった。
「誓いの鐘」の他に、交付金の使い道として疑問視された県の事業はそのまま通った。知事と面談した男性は無念そうにこぼした。「知事に直接思いを伝えただけに非常に残念だ。県民への納得のいく説明はいまだにない。私は何のために会ったのか」【竹林静】