「大麻」に栽培免許? 実は日本伝統の農作物 栃木の「博物館」で学ぶ

大麻といえば、マリフアナ? そんな危険なイメージが漂うが、糸や布、げたの鼻緒、釣り糸にもなってきた日本の伝統農作物でもある。現代の洋服の麻とも違うらしい。大麻の生産量ダントツの栃木県に「大麻博物館」があると聞き、正しい大麻の歴史と用途を学んできた。【真田祐里】
那須インターチェンジを降りて、おしゃれな飲食店や土産物屋が並ぶ那須街道を北西に進む。1本小道に入ると、異質なログハウスが目に入った。大麻の葉のマークを掲げた「大麻博物館」で、2001年に私設博物館として開館した。
扱うのはもちろん違法薬物のマリフアナではなく、伝統的な農作物としての大麻である。
館内には、「精麻」と呼ばれる繊維、精麻から作られた糸や布が展示されている。大麻に関する文献資料などもある。館長の高安淳一さん(57)が言う。
「大麻と聞くと、ネガティブな印象を持つ人も多いけれど、本来は日本人の生活に密着していた農作物なのです」
日本では大麻を「麻」と呼び、げたの鼻緒や蚊帳、釣り糸、漁網などに用いてきた。特に神事との関わりが深いらしい。現在でも神社の鈴緒や大相撲の力士がつける「横綱」にも使われている。全国各地には、赤ちゃんの産着に麻の葉の模様を使う風習もあり、生活に根ざしていた。
洋服の麻とは異なる大麻
品質表示のタグに「麻」と書かれた洋服があるが、これは大麻ではない。家庭用品品質表示法では、亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)の繊維を「麻」と定めている。これらは外来種で大麻とは違うが、明治以降にまとめて「麻」と呼ぶようになったという。「本来は大麻だけが麻だったのに、リネンとラミーが麻に替わってしまった」
展示してある大麻製の布を触らせてもらう。
普段着ている麻製品よりも肌触りが柔らかく、軽い。高安さんは「丈夫で、夏は涼しく冬は暖かい。火にも強いので、江戸時代に火消しが着ていた服の繊維も大麻だった」と話す。
戦後は大麻の需要が低下
ただ、戦後は海外由来の植物繊維や化学繊維が台頭し、大麻の需要は低下していった。紡績にも適さないため、コットンなどに取って代わられたのだ。
それだけはない。大麻衰退の要因について「米国のヒッピーやベトナム帰還兵のマリフアナ使用で、日本で栽培されてきた大麻の印象も悪くなってしまった」とも指摘する。
現在は、都道府県知事から免許を発行された農家だけが大麻を栽培している。
厚生労働省によると、生産者数は最も多い1954年に全国で約3万7300人だった。しかし、需要の減少や生産者の高齢化もあり、2016年には37人にまで減った。
ちなみに、農水省の「特産農作物の生産実績調査」によると、栃木県は全国一の大麻の生産地で、生産量は全国の9割以上を占める。現在も農家が17軒あるが、後継者のいる農家は1軒だけだという。
大麻の生産だけでなく、加工技術も衰退しているという。大麻から糸を作り、布を織れる人は全国で10人もいないらしい。高安さん自身も技術を継承するために、福島県在住の女性のもとで10年間修業を積み、東京で「麻糸産み後継者養成講座」を開いている。
向精神作用がない部分を収穫
大麻から収穫するのは向精神作用が含まれる葉や花ではなく、茎とその皮、種子の3種類だ。栃木県では、大麻の盗難被害が相次いだことから、向精神作用がほとんどない品種を栽培している。
一方、マリフアナをめぐっては、ウルグアイやカナダ、米国の一部の州で合法化されている。海外では産業や医療用大麻などのビジネスの拡大が「グリーンラッシュ」と呼ばれ、注目を集めている。
こういう時だからこそ、高安さんは大麻の正しい理解の必要性を強調する。
「日本では大麻がマリフアナと混同され、大麻を語ることに忌避感がある。しかし、世界で大麻が注目を集めているなか、日本でもフラットな議論をしたい。そのために、日本に昔からある農作物としての大麻について正確に伝えていきたい」
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栃木県那須町高久乙1の5。東北自動車道の那須インターチェンジから車で約5分。開館時間は平日12~18時、休日10~19時。休館は水、木曜日。入場無料。0287・62・8093。