菅義偉政権は8日、東京都など1都3県を対象に「緊急事態宣言」を発令した。発令そのものは妥当と思うが、東京都の小池百合子知事ら1都3県の首長の声に押されて決断した印象があるのは、残念だ。菅政権は「国民とのコミュニケーション」を抜本的に改善する必要がある。
政府は昨年末から、宣言発令を検討していたフシがある。
例えば、新型コロナ対策を担当する西村康稔経済再生担当相は昨年12月30日、ツイッターで「感染拡大が続けば、国民の命を守るために、緊急事態宣言も視野に入ってくる」と発信していた。
投稿はNHKなど一部で報じられたものの、残念ながら、世の中に大きなインパクトを与えるには至らなかった。ツイッターでは所詮、「大臣のつぶやき」程度にしか受け止められなかったのだ。
派手に動いたのは、小池氏だった。
彼女は同日、緊急記者会見を開いて「感染を抑えなければ、緊急事態宣言の発令を要請せざるを得なくなる」と語った。大みそかの31日、東京の新規感染者が1337人というショッキングな数字が出ると、小池氏は1月2日、3県首長を引き連れて西村氏と会談した後、会見で「宣言発令を要請した」と語った。
菅首相が「宣言発令の検討に入る」と語ったのは、2日後の4日だ。このときまでに、世間には「もはや宣言発令は不可避」という相場観が出来上がっていた。これでは、いくら首相が「先手先手で対応する」と言っても、むなしく響くばかりである。
政府が主導権を握るチャンスは何度もあった。西村氏がツイッターで発信した12月30日が1度目だ。せめて大臣が会見し、顔を見せて話していれば、マスコミの受け止め方も違っていただろう。
2度目は1337人という数字が明らかになった31日夕刻だ。この日、菅首相は首相官邸で即席会見に応じた。記者団が「緊急事態宣言を出す考えはないか」と問うと、首相は「いまの医療体制をしっかり確保し、感染拡大阻止に全力を挙げる」と答えた。
重ねて宣言発令について問われても、菅首相は「いま申し上げた通りです」と答え、背を見せてスタスタと去ってしまった。私は「これではダメ」と思った。国民は予想外の数字に衝撃を受けているのに、政府がしっかり受け止めず、文字通り「後ろ向き」の印象だけが残ったからだ。
ここは、菅首相が「私も衝撃を受けている。あらためて万全の対応を検討する」くらいは語る場面ではないか。宣言発令を口にしなくても、そう言えば、国民は「ああ、首相も私たちと同じなんだな」と共感する。それがないから、「首相は分かっていない」と、がっかりしてしまう。
国民に寄り添うとは、なによりもまず、国民の不安や辛さを共有したうえで、機会を逃さず対応することだ。菅政権はそこを国民に示すパフォーマンスが欠けている。小池氏のフリップ芸と派手な立ち回りには辟易とするが、菅政権の質実剛健さだけでも国民は心が休まらない。
菅首相は広報体制を早急に見直すべきだ。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。