菅総理「国民皆保険」発言は珍しく原稿を見ずに言っていた!? 5分間の質疑を信号無視話法分析

◆物議を醸した1月13日の総理記者会見

以前の記事で取り上げた1月7日の総理記者会見から6日後の1月13日、大阪を含む7府県に緊急事態宣言は拡大することとなり、再び総理記者会見が開かれた。しかし、これまで通り記者は1人1問に制限されて再質問が許されない上、そもそも大半の記者は官邸に質問を事前通告しているように見え、厳しい質問は少なかった。

参考までに質問が許された全8名の所属と名前、質問内容の要約を下表に示す。

この8名の中で、最後に指名されたフリーランス(ビデオニュース)の神保哲生記者は質問の事前通告に応じていなかったと見られ、これまで大手メディアは質問しなかった、政府の責任や役割を問いただす厳しい質問を行っている。

本記事では、この神保記者と菅義偉総理の5分間にわたった質疑をピックアップして、一字一句漏らさずにノーカットで信号機で直感的に視覚化していく。具体的には、信号機のように3色(青はOK、黄は注意、赤はダメ)で直感的に視覚化する。(※なお、色表示は配信先では表示されないため、発言段落の後に( )で表記している。色で確認する場合は本体サイトでご確認ください)

3名の記者の質問に対する菅総理の回答を集計した結果、下記の円グラフのようになった。

<色別集計・結果>

●菅総理:赤信号91% 灰色9%

*小数点以下を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはならない

実に9割以上が赤信号であり、まったく質問に回答できていない。いったいどのような質疑だったのか詳しく見ていきたい。

〈*記事中の動画リンクが表示されない配信先で読んでいる場合、動画は筆者のyoutubeチャンネル「赤黄青で国会ウォッチ」で視聴できます〉

◆菅総理が動揺した神保記者の質問

神保記者は最後の8人目として質問を許された後、約2分間にわたって発言し、政府が本来の責任を果たさずに国民にばかり責任を押し付けている実態を指摘した後、法改正による状況の改善について質問する。その質問内容は以下の通り。(下記の動画リンクの0分27秒~)

司会者(山田真貴子 内閣広報官):『「それでは、恐縮ですが、次の日程ございますので、あと1問とさせて頂きます。では、内閣記者会以外の方で、日本ビデオニュース株式会社の神保さん。』

ビデオニュース 神保哲生記者:『ありがとうございます。えー、ビデオニュースの神保です。あのー、総理、今日、会見を伺っているとですね、基本的に、まあ、国民に、まあ、あのー、色々協力を求めるというお話をずっとされてきましたが、もう一つ我々が是非知りたいのではですね、その間いったい政府は何をやってきたのかなと。国民に協力を求めてるのは、もちろん必要なんでしょうけども、じゃあ政府は何をやってたのかということをですね、知りたい国民が多いと思います。そこで、あの、先ほどですね、ちょっと医療崩壊についての質問があったので、えー、ぜひ伺いたいんですけども、先ほど、まあ、あのー、「日本は日本の独自の医療の仕組みがあるから、違うから」というお答えだけでしたけどもね、日本は、あのー、病床数は世界で、人口あたりの病床数が世界一多い国ですよね。で、今、感染者数はアメリカの100分の1くらいですよね。それで医療が逼迫していて、緊急事態を迎えているっていう状況の総理の説明がですね、単に「医療の体制が違うんです」っていうので、果たして良いのでしょうか。つまり、体制をつくっているのは政治なんじゃないかと。政治が法制度を変えれば、変えられるじゃないですか。

そこで、質問です。もうすぐ国会始まります。例えば医療法によって、いま政府は病院の病床の転換というのは病院任せにするしかない。お願いするしかない状況になってますけども、例えば医療法の改正というのは、あの、ただ単に「システムが違います」じゃなくて、えー、今の政府の中のアジェンダに入ってないんでしょうか。それから、同じくですね、感染症法の改正。これもコロナがですね、当初あんまり、どういう病気か分かんない段階で、2類相当にしてしまった。なので非常に軽症者や無症状者でも、非常に、あのー、厳重に扱わなきゃいけなくなっている。それも、医療に非常に大きな負担になっている。それをですね、それも法制度を変えれば、えー、随分変わってくると思うんですが、そういうことがむしろ政府の仕事ではないのかと。なので、国民に対して、まあ、その、いろいろ犠牲をお願いすると同時に、政府側がこういうことをするって話が、ずーっと待ってて、あのー、総理から出てくるのを待ってたんですけど、なかなか出てこないので、是非そこをですね、特に国会が始まりますので法制度の部分でその2つの法律。えー、今国会で、あのー、えー、改正されるおつもりがあるのかも含めて、あのー、お願いします。』

この質問で触れている前の質疑について補足すると、神保記者の3人前にあたる、5人目のブルームバーグ記者は「米国よりも感染者数が少ないにもかかわらず、医療崩壊が指摘されている日本の医療体制に問題があると考えているか」と質問していた。この質問に対する菅総理の回答は「医療提供体制は国によって違う」「体系が異なるので比べることは難しい」という雑なものであった。この回答に対して神保記者はそもそも体制をつくるのは政治の役割であることを説きながら、医療法改正による病床数の改善、感染症法改正による現場負担軽減に向けて、今国会での法改正について問い質している。

この質問は事前通告されていなかったため、総理自身が回答を考える必要があったためか、問題となった国民皆保険の見直しに関する発言がこの後に唐突に出てくることになる。

◆突然飛び出した「国民皆保険」発言

神保記者の質問に対する菅総理の回答は以下の通り。(下記の動画リンクの2分36秒~)

菅総理:『えー、まず、このー、コロナ感染者への医療について、まあ、政府として、えー、そこに対応してもらってる医療機関に対して、まあ、しっかり支援をさせて頂いたりですね、あるいは、あー、保健所への人員の派遣。そうしたものの体制をつくったり、クラスターが発生すると政府のチームがそこに行って対応するなど、そうしたことについて政府は行ってきました。そして、また、この、医療機関でありますけども、これは、あのー、日本には今の法律がある中でですね、あのー、逼迫状況にならないように、えー、まあ、政府としては、ベッドは数多くあるわけでありますから、それぞれの民間病院にですね、えー、言って、おー、出して欲しいとか。そういう働きかけているのは、ずっと行ってきているということも、おー、事実であります。(赤信号)

そして、この、感染症については先ほど申し上げましたけども、おー、そういう法律改正は行うわけですから、まあ、それと同時に医療法について、今のままで結果的に良いのかどうか、国民かい・・、皆保険。そして、多くの皆さんが、その診察を受けられる今の仕組みを続けていく中で、まあ、今回のコロナがあって、まあ、そうしたことも含めてですね、えー、もう一度検証していく必要があるというふうに思ってます。それによって必要であれば、そこは改正するというのは当然のことだと思います。(赤信号) 』

ビデオニュース 神保哲生記者:『現時点ではお考えになってないということでしょうか?』

菅総理:

『今申し上げましたように、それは検証する必要があるというふうに思ってます。そして、その上のことだと思います。』

司会者(山田真貴子 内閣広報官):『大変恐縮ですが、次の日程ございますので、会見はこちらで結ばせて頂きたいと思います。今挙手されてる方につきましては、各1問メールでお送りください。後ほど総理の回答を書面で返させて頂くと共にホームページでも公開をさせて頂きますので、どうぞご理解いただくようにお願い致します。では、以上をもちまして本日の総理記者会見を結ばせて頂きます。皆様のご協力に感謝申し上げます。』

*司会の発言中、記者席からは「総理、もうちょっとだけ」等の質問を求める声が相次いだが、菅総理は応じることなく退出する

このやりとりを振り返ってみると、菅総理は質問にまったく回答できていない。1段落目、2段落目共に論点をすり替えており、赤信号とした。

1段落目

【質問】今後の政府対応

↓ すり替え

【回答】従来の政府対応

2段落目

【質問】医療法による病床数の改善

↓ すり替え

【回答】医療法による国民皆保険の見直し

◆原稿を見ずに正面を見て「国民皆保険」発言をした菅総理

1段落目は今後の話を聞いているのに、従来の話を延々と述べているに過ぎない。2段落目は「医療法」というキーワードから連想したのか、問題の国民皆保険に関する発言に移っていく。

この2段落目で医療法について言及する中で「今のままで良いのかどうか、国民皆保険」「多くの皆さんが診察を受けられる今の仕組みを続けていく中で、今回のコロナがあって、もう一度検証していく必要がある」等と発言しており、どう考えても国民皆保険の見直しを考えているとしか受け取れない。しかも、これらの発言をしている際、菅総理は珍しく原稿を見ずに正面を向いて発言していることが映像で確認できる。自分の言葉で語っていると考えられることから、これらの発言は菅総理の偽らざる本音なのではないか。(下記の動画リンクの3分58秒~)

翌14日午前に加藤勝信官房長官は定例会見で「国民皆保険制度という根幹をしっかり守ってく中で、検証していく」という意味であったと火消しにかかったが、上記の動画を見れば、かなり苦しい言い訳だと言わざるを得ない。

◆無視された追加質問の要望

この総理発言には記者席もざわつき、司会者が会見終了を告げる中、複数の記者が映像でもはっきりと聞こえるほど大きな声で追加質問を求める声が相次いだ。

だが、この要望は無視され、これまでと同様に「次の日程」を理由に会見は打ち切られた。結局、質問が許された記者は8名のみだった。ちなみに、首相動静でこの会見後の動きを確認したところ、以下のようになっていた。

<首相動静 1月13日>

午後7時1分から同41分まで、記者会見。

同42分から同57分まで、藤井健志官房副長官補、吉田学新型コロナウイルス感染症対策推進室長、厚生労働省の樽見英樹事務次官、福島靖正医務技監。午後8時29分、官邸発。

午後8時35分、東京・赤坂の衆院議員宿舎着。

つまり、菅総理は午後7時41分にこの会見を終えた後、同じ官邸内で身内の会議に15分間だけ出席し、官邸を出発。赤坂の議員宿舎に到着したのは、会見終了から1時間すら経過していない午後8時35分であった。

質問を求める記者の要望に応じることは十分に可能な日程であったにもかかわらず、菅総理は記者会見から逃げ出した。

<文・図版作成/犬飼淳>

【犬飼淳】

TwitterID/@jun21101016

いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。noteのサークルでは読者からのフィードバックや分析のリクエストを受け付け、読者との交流を図っている。また、日英仏3ヶ国語のYouTubeチャンネル(日本語版/ 英語版/ 仏語版)で国会答弁の視覚化を全世界に発信している。