「犯人を死刑にしてください」。富山地裁で8日に行われた富山県警富山中央署・奥田交番襲撃事件の裁判員裁判第11回公判。強盗殺人罪などに問われた元自衛官島津
慧大
( けいた ) 被告(24)に対し、意見陳述を行った被害者の遺族4人は口をそろえて「極刑」を求めた。検察側は論告で死刑を求刑、弁護側は無期懲役が妥当だとし、閉廷した。
「主人のいる天国に行ってほしくない。地獄へ行ってほしい」。被害者参加制度で法廷に立った稲泉健一警部補(当時46歳)の妻は、震える声で裁判員に訴えかけた。妻と長男はこの日、最愛の家族を失った苦しみを事件後初めて公の場で語った。
妻によると、稲泉警部補は「とても優しく、頼りになる立派な人だった」。多忙で旅行にあまり行けず、長男が成長したら夫婦で旅行する約束をしていた。「もっと一緒にいたかった。私たち家族はあの日、全てを奪われた」。事件後、交番周辺や病院に近づけなくなった。パトカーや救急車のサイレン音を聞くと事件を思い出して苦しくなり、一緒にドライブした道路を通るだけで涙が出るという。
長男は、週末に一緒に銭湯に行ったり、学校の行事に来てくれたりした「自慢の父だった」と振り返った。被告については「反省しているように思えない。最低限、死刑にしてほしい」と訴えた。
中村信一さん(同68歳)の弟と妻も証言台に立った。弟は「被告の口から(兄の)名前すら出ないことが残念で仕方ない」と述べた。被告の発達障害について「障害があっても悪いことをしたら平等に裁かれるべきだ」と語気を強めた。
中村さんの妻は、初公判前に被告と面会した際、「『(殺したことを)悪いと思えない。こんな自分で申し訳ない』と言われた」と明かした。「あなたには私たちと同じように苦しみ、後悔し続けて生涯を終えてほしい」と、島津被告の方を見ながら語りかけた。これまでは前を見つめるだけだった被告も、妻の方に顔を向けて耳を傾けている様子だった。
この日は、検察側による論告求刑と、弁護側の最終弁論の一部が行われた。
検察側は論告で、被告の犯行の計画性を指摘。交番内外の防犯カメラの映像や、取り調べでの供述から「警察官との戦闘計画を実行するため、拳銃を奪う目的で交番を襲撃した」と主張した。
警察官の襲撃は「警察に対するテロ行為」と指弾し、アルバイト先のトラブルを発端とする動機については、「
鬱憤
( うっぷん ) の矛先を警察官に向けたことは全くの筋違いで身勝手だ」と断じた。
一方、弁護側は、被告は自分の気持ちを言葉にしづらい特性があるため、内心の説明が難しく、発達障害は「確実に(事件に)影響している」と訴えた。また、入院中の面会時と、逮捕後の取り調べでは供述の内容が変遷していることから、供述の信用性に疑問を呈した。
弁護側の最終弁論の残りは9日に行われ、結審する予定だ。