狙われたポストの合鍵、実は容易に複製可能…家主に気付かれず繰り返した犯行の手口

神戸地裁は1月、神戸市内などのマンションで、合鍵を使って空き巣を繰り返し、現金約400万円などを盗んだ30歳代の男に懲役3年の実刑判決を言い渡した。男は家主に気づかれることなく合鍵を次々と複製し、犯行に及んでいた。「狙われたポストの合鍵」。その手口とは。(鈴木彪将)
2019年11月、神戸市中央区の高層マンションに住む50歳代男性から、「室内の現金や貴金属がなくなった」と兵庫県警に通報があった。ただ、部屋の窓ガラスが割られたり、鍵を壊されたりといった外部からの侵入痕跡はなかった。
警察はマンションの防犯カメラを確認。すると、男性宅に玄関の鍵を開けて入室する不審な男の姿が映っていた。「なぜ、鍵を持っていたのか」
男性は合鍵を隠していた集合ポストを調べたが、持ち出された形跡はなかった。念のため、鍵会社に問い合わせてみると、予想もしない答えが返ってきた。「その鍵、複製依頼がありましたよ」。見ず知らずの女性の名前で申し込まれていた。

ほかにも女性名で複製依頼されていたことがわかり、警察は鍵の送付に合わせて、女性宅のある大阪府内のマンションに張り込んだ。
宅配業者が到着すると、女性宅に近づく一人の男がいた。男は荷物を受け取ると、部屋には入らず、そのままマンション外へと消えていった。
「あいつだ」。捜査員は男に見覚えがあった。かつてマンションで空き巣を繰り返し、兵庫県警に逮捕されたことのある男だった。
警察はその後、男の行動を確認。容疑が固まり、男の自宅を捜索した。室内からは複製された鍵約130個がみつかり、男は県内や4道府県で現金や貴金属などを盗んだことを認めた。
一連の手口はこうだ。マンションの集合ポストの隙間をのぞき、合鍵がないかを確認。鍵があると、鍵に刻印された「鍵番号」と「製造会社名」を記録し、所有者を装って鍵会社に複製を依頼していた。実は、この「鍵番号」と「製造会社名」があると、複製は簡単にできるのだ。
男は、所有者とは異なる実在する人物の名前と住所を伝えていた。鍵会社から完成の連絡があると、宅配業者の「配送状況」をインターネットで閲覧し、到着時間を予測。家の前で家人になりきって受け取っていた。

地裁であった公判で、男は犯行に至るまでの経緯を口にした。
初めて空き巣をしたのは高校生の時。就職後も収入が減ると空き巣で小遣い稼ぎをするようになり、逮捕された。
その後、更生を誓い広告デザイナーの仕事に就き、家庭も持って幼子を育てるよきパパとなった。
だが、昨年の新型コロナウイルス禍で仕事が激減。「妻と子に心配をかけたくなかった」。生活費を稼ぐために、過去の事件の手口をまねて、また過ちを犯した。
言い渡された判決は懲役3年。「(刑務所から)出てきたとき、子供はまだ幼い。父親としての存在を示せるように」。裁判官の説諭に、男はどこかすっきりとした表情を浮かべ、小さくうなずいた。そして2週間後、判決は確定した。

警察庁によると、第三者による複製も含め、合鍵を使った「空き巣」は2019年に993件起きた。
日本ロック工業会(東京)は「鍵番号はメーカーがデータを管理しているが、もし悪意を持った他人が番号を控えれば、メーカーに注文して複製することは可能。大切な情報であることを知ってほしい」と指摘する。
関係者によると、鍵会社や複製業者は、免許証などで依頼者の本人確認をしているが、実際の鍵の所有者かどうかの確認は厳密にできていないのが実情という。
同工業会は「郵便ポストに置いておくことはもちろん、鍵を他人に見せたり、渡したりすることは危険であることを知ってほしい」と注意を呼び掛けている。