新型コロナウイルスのワクチンが国内で初めて承認されることが12日、事実上決まった。欧米諸国から2カ月遅れで、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも後発組となる。官民ともにワクチンに後ろ向きな歴史的背景があり、国内治験を不可欠とする薬事承認の在り方も壁になった。国際的にワクチン獲得競争が激化する中で、承認の遅れが供給不足につながることを危惧する声もある。
「確保は早かったと思うが、接種が遅れているのは事実だ」。菅義偉(すが・よしひで)首相は2日の記者会見で、ワクチン接種が世界的に遅れていることを指摘され、こう釈明した。その理由として、安全性や有効性を確認するための薬事承認の在り方など手続きの問題を挙げた。
今回承認される米ファイザー社のワクチンは昨年12月に英国で初めて承認された後、米国や他の欧州諸国でも相次いで承認され、接種が始まった。ワクチン配分の国際的枠組み「COVAX(コバックス)」を通じ、低所得国へのワクチン供与の動きも進む。少なくとも1回接種した人は世界で1億人を超えている。
日本の承認遅れの背景を「100%の安全神話が求められ、拙速に決めたといわれるのを嫌がる」と説明するのは、日本ワクチン学会理事で長崎大の森内浩幸教授。副反応への国民の嫌厭感が強く、薬害リスクも抱える中、慎重な手続きを受け入れてきたという。
世界的に普及するワクチンが日本では使用できない「ワクチンギャップ」も長い間解消されず、2009年に新型インフルエンザが流行した際もワクチン不足で混乱が起きた。こうした事情の下、製薬会社がリスクの高い巨額投資を敬遠し、国産ワクチンの開発にも後れを取ってきた。
承認審査には海外だけでなく国内の治験データが必要で、ファイザー社も日本人160人に治験を行い、申請時期がずれ込んだ。森内氏は「世界中で1億人が使い、アジア系の人にも相当数打っている。100人、200人で日本人特有の有効性、安全性は分からず、パフォーマンスに過ぎない」と疑問を呈する。
承認遅れが供給面では致命的になる恐れがある。ワクチンの製造工場がある欧州連合(EU)が輸出管理を強化した影響で、政府内では「供給スケジュールを固められない」との懸念が渦巻く。「ワクチンは国家戦略。供給不足になれば、開発国が自国を優先し、それ以外の国がいろいろな理由で後回しにされるのは当然」と森内氏は話す。
一方で、通常なら早くても1~2年かかる手続きが、特例承認の適用で申請から2カ月余りで承認されるのは極めて異例との声もある。
北里大の片山和彦教授(ウイルス感染制御学)は「海外で承認されていても、日本で導入する際には自国の安全性の基準を満たしているかを確認する必要がある。日本国内で安全性に問題があった場合、先行承認国・導入国は補償してくれない」と指摘する。
その上で、接種が先行する海外の副反応などの情報を「メリットとして、うまく生かせばいい」(片山氏)。国内で先行接種する医療従事者約2万人も安全性の調査を兼ねており、片山氏は「国民への分かりやすい情報公開が求められる」と強調した。