現市庁舎は保存すべき「財産」か、解体すべき「負の遺産」か――。島根県江津市は、5月に新庁舎(同市江津町)へ移転した後に残る現庁舎(同)のあり方に関する議論を加速させるため、2021年度当初予算案に調査検討費610万円を盛り込んだ。図書館への転用案を支持する声が多いが、解体を含めて方向性はまだ見通せない。評価の高い近代建築だけに、市民が納得できる着地点が求められる。【萱原健一】
現庁舎は鉄筋コンクリート造5階(一部8階)建て、延べ床面積4122平方メートル。世界的建築家ル・コルビュジェの弟子、吉阪隆正(1917~80年)が設計し、62年3月に完成した。建設費は約1億5000万円で、うち2割の約3000万円が市民や企業の寄付で賄われたという。
モダン・ムーブメントの建築
逆V字型の橋脚に橋桁のような建物が載ったユニークなデザインで、市のシンボルとして市民から親しまれてきた。建築界の評価も高く、2016年には近代建築の保存・記録に取り組む学術団体「ドコモモ・ジャパン」が「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」に選定した。
名建築も完成から半世紀以上がたって老朽化し、補強しても耐震性が不十分との理由で17年に新築移転が決まった。移転後、現庁舎をどうするかは未定。市が19年度に東京都と岡山県で民間業者から意見を募ったところ、大手リース会社など6社が関心を示した。しかし改修工事を一から請け負うことなどがネックとなり、民間譲渡の話は進んでいない。
さらに市が同年度、広く一般に意見を求めたところ、声を上げた県外を含む72人のうち64人(89%)が「保存活用」、8人が「解体」を希望した。活用案では図書館への転用が半数を占め、江津市民に限定すれば7割以上に達した。
解体費用2億円
問題は費用だ。市が17年3月に策定した市庁舎改修整備基本計画では、内部の改修と耐震化に約10億円かかると試算。一方、解体の場合は約2億円。総事業費に約34億円かけた新庁舎の完成後も、2校を統合する新たな小学校の新築など大型事業が控えており、市にとって厳しい財政事情に変わりはない。
市は21年度、有識者による第三者機関を発足させ、改修した場合の耐用年数などを詳しく調査する。山下修市長は当初予算案を発表した22日の記者会見で「21年度いっぱいで方向性を見いだしたい。解体が一番安上がりだが、私の頭の中では揺らいでいる。方向性が決まれば、市内を回って説明するつもり」と話した。
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ミニフォーラム「再生再利用?解体?――江津市庁舎は市民の財産か負の遺産か」が3月28日、JR江津駅前の「パレットごうつ」(江津ひと・まちプラザ)で開かれる。入場無料。先着100人。申し込み・問い合わせは県建築士会江津支部(0855・52・4787)。