新型コロナウイルスが世界的に大流行する中、ワクチンを開発する医薬品メーカーや医療機関、物流業者を狙ったサイバー攻撃が欧米諸国で相次いでいる。日本でも5社がワクチン開発を本格的に進めるが、不審な動きがあることが毎日新聞の取材で確認された。ワクチン接種の本格化が近づく中、官公庁と民間が一体となった対策が急務となりそうだ。
毎日新聞は日本のワクチン開発を進める企業5社にアンケート調査した。KMバイオロジクス(本社・熊本市)は「被害はなかったが、ワクチン開発に着手したことを発表した後にアクセスしようとする不審な動きが倍増した」と回答した。同社は社員教育の徹底や、監視システムを24時間運用するなど対策を強化している。
さらに課題となるのが物流業者を狙ったサイバー攻撃だ。日本で接種が始まった米ファイザー製のワクチンは超低温での保管や輸送が必要で、物流が滞れば接種日程への影響が避けられない。物流業者などの対策についてワクチンメーカーは「連携する企業が各々にとっている」(アンジェス、本社・大阪府茨木市)などとしている。ワクチン接種の準備を担う地方自治体を含めた対策が必要となりそうだ。ほかの3社は「非開示」「無回答」だった。
海外では、ファイザーや、米モデルナ、英アストロゼネカなどのワクチン開発企業がサイバー攻撃を受けた。またワクチンを審査する欧州連合(EU)の機関である欧州医薬品庁(EMA)も昨年秋から攻撃を受け、ファイザーとモデルナのワクチン情報が盗まれた。
米連邦捜査局(FBI)や米国土安全保障省などは、中国、ロシア、北朝鮮、イランの4カ国が攻撃を仕掛けていると分析。また、国際刑事警察機構(ICPO、本部・仏リヨン)は昨年12月、「組織犯罪はワクチンを標的に据えている。(物流など)サプライチェーンを含め、混乱に陥れようとしている」と厳重な警戒を呼び掛けた。
一方、日本政府の対応は鈍い。内閣サイバーセキュリティーセンターや厚生労働省によると、ワクチンをターゲットとしたサイバー攻撃の実態について把握する動きや、対策強化に向けた予算案も検討されていない。サイバー攻撃の実情に詳しいNTTの松原実穂子チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジストは「米バイデン新政権は、コロナ対策予算案に約1兆円のサイバー攻撃対策を盛り込んでいる。日本も参考にすべきだ」と指摘している。【永山悦子、会川晴之】