岐阜県内に出ていた新型コロナウイルスの緊急事態宣言は1日、解除されたが、医師や看護師、患者のコロナ感染が判明した木沢記念病院(美濃加茂市古井(こび)町・452床)では、全国的にも有数な規模となった「病院クラスター(感染者集団)」が収束していない。2月25日現在で計225人の感染が確認され、亡くなった人も複数いる。原因究明とさらなる対策が求められている。【黒詰拓也】
病院で最初に感染者が確認されたのは2月2日。医師や入院患者ら16人の感染が分かり、接触者を中心にPCR検査(遺伝子検査)を進めたところ、新規陽性が連日判明し、全11病棟に感染が広がっていた。感染者225人のうち、医師や看護師ら職員は92人、患者は94人、患者の家族らが39人。患者94人のうち13人は、退院した後に検査を受けて陽性となった。病院は2日から救急患者、8日から新規外来患者の受け入れを停止している。
病院ではクラスターが起きる前から、入院を控えた全ての患者にPCR検査を受けてもらい、県内で感染者が急増した昨年末以降は家族の面会を全面的に停止していた。もともと地域のコロナ感染者を受け入れ治療していたこともあり、検温や消毒、防護服の使用といった「対策はきちんと講じてきた」(担当者)はずだったが、感染拡大を防ぐことはできなかった。
県は厚生労働省のクラスター対策班に調査を依頼。班に所属する国立感染症研究所の医師2人と看護師1人が10日から22日まで現地で調査、原因分析をした。入院中に呼吸状態が悪化した患者の感染判明後に、担当スタッフの陽性が分かったケースがあったことが分かった。ただ「感染が全ての病棟まで広がった原因は分かっていない」(県健康福祉部の堀裕行次長)。
200人超は全国で10件 共通点は
厚労省のクラスター対策班によると、医療機関で2人以上の感染が確認されたケースは全国で延べ903件(2月22日現在)。そのうち200人を超えたクラスターは10件程度あった。感染拡大が広がった共通の要因に「初動の遅れ」があるという。スタッフや入院患者が自身の感染に気付かないまま病室や病棟を移動し、持病があるなど抵抗力が落ちている人に次々と感染が広がった事例もある。
コロナに感染しても無症状であったり、コロナ以外の疾患で発熱していたりすることがあるため、コロナの感染を素早く見つけることが困難な場合も多い。マスクの着用や消毒などの基本的な対策を徹底し、患者のわずかな体調変化を医療スタッフ間でしっかり引き継ぐことが、感染予防には欠かせない。
昨年2月に医師と入院患者計5人の感染が判明し、国内初の病院クラスターとされた済生会有田病院(和歌山県湯浅町・184床)では、医療従事者の手指を介して感染が広がった可能性が高いことが和歌山県の調査で分かった。
戸田中央総合病院(埼玉県戸田市・517床)では、昨年11月から2月24日までにスタッフと患者計324人の陽性が判明。感染者数は国内最大規模となった。対策班と埼玉県の調査によると、認知症でマスクを常に着用できない患者がいたほか、その患者の担当スタッフの陽性も判明するなどしていた。休憩室や更衣室でスタッフがマスクを外して会話していたことも、感染拡大の一因となったという。
「持病が悪化したら…」不安の患者
木沢記念病院は、31の診療科を持つ地元の基幹病院だ。2月8日以降は、予約のある再診患者のみ受け入れているが、患者からは不安の声が聞かれた。
病院の近くに住む女性(65)は、持病である糖尿病と高血圧の状態を調べるため、5年ほど前から2カ月に1度、血液検査を受けてきた。2月13日も検査を受ける予定だったが、夫や息子が感染を心配したため見送り、病院に電話して看護師による問診のみ受け、薬の処方箋を出してもらった。
女性によると、この病院はスタッフの体制が充実しており、最新の機器も備えていることから各地から多くの患者が訪れているという。「今は体調に問題はないが、持病が悪化したらすぐに診てもらえるのだろうか。クラスターが早く収まることを願うしかない」と表情を曇らせた。
坂祝町酒倉の会社員、糸数龍士さん(43)は2月27日、歯科口腔(こうくう)外科で虫歯の治療を受けた。本来は13日に受ける予定だったが、病院から診察日を延期してほしいと頼まれたという。「理由は聞かなかったが、コロナだろう。歯の状態が無事で良かった」と胸をなでおろしていた。
病院はホームページに「感染経路と感染拡大の要因は調査中」と掲載している。佐合茂樹事務長は27日、毎日新聞の取材に「原因などあらゆることが分かっておらず、ホームページに書いてあること以外のコメントはできない」と話した。
これまで確認された主な病院クラスター
病院名(所在地) 病床数 感染者数 感染拡大の経緯や原因
済生会有田病院(和歌山) 184床 5人(収束) スタッフの手指から患者に感染
永寿総合病院(東京) 400床 235人(収束) 密となる部屋での対策の不徹底
旭川厚生病院(北海道) 499床 311人(収束) 無症状の入院患者から拡大
戸田中央総合病院(埼玉) 517床 324人 職員や患者のマスク着用不徹底
木沢記念病院(岐阜) 452床 225人 (調査中)
※自治体や病院への取材による。木沢記念病院の感染者数は家族も含む